「娘さんですか?仲がよろしいですね」
人が良さそうな店員の言葉に私と理一さんは思わず目を合わせて、腕を絡ませ、とびきり幸せそうに笑い合った。
「いえ、私達は・・・」 「この通り、夫婦です」
にっこり。店員は驚きながらもあらまぁお若い奥様で良いですねぇと目を細めた。
夫婦でお買い物。このシチュエーションを何度夢見たことだろう。「お夕飯は何が良いですか?」「うーん、迷うね。アンリの料理は全部美味いから」「やだ、理一さん。おだてたって何も出ませんよ?」 うふふあはは、なんて。
・・・栄おばあさま、アンリは今とても満たされています。夢にまで見た憧れの人と結ばれ、あろうことか結婚にまでこぎ着けてしまうなんて・・・流石おばあさまの戦略に狂いはありませんでした。 そんな幸せ絶頂の状態。たとえ娘に間違われようと夫婦に見えなかろうと、隣に彼がいると思うだけで足取りは軽くなる。
しかしいつもと変わらないように見える旦那様は、もしかして先ほどの店員が言った何気ない一言に内心傷ついたりしてたりするのだろうか。
浮き足立っていた気持ちにピシリと緊張が走る。
もしかして、と思ってしまうのはやはり、私が彼を理解などしきれていないと感じているからだ。 10年、見つめてきたつもりだった。それでも見られるのは陣内理一という人のほんの一部だけ。 やっぱりこんな年下の、親戚の子供相手は嫌でしょうか。貴方のことを誰よりも慕っている自信がありますが、誰より理解している自信はありません。私、女性として愛してもらえているのでしょうか。
口にすればなんてこと無いこと。男性は慈しみの言葉を口にしないことを良しとすると聞きました。
「理一さん」
「・・・ん?」
「帰ったら、美味しいご飯つくりますね」
(私、今すごく幸せですよ。本当に、大好きなんです)
気持ちが伝わるように、空いている右手で彼の薬指をそっと掴んだ。 触れた私達の繋がりを意味するシルバーリング。思いのほか冷たい温度に、パッと指を離して。
だけど、
さすがに大通りでドラマのように抱き締めてはくれなかったけれど、力強く右手を包んだ暖かさに頬がとろりと緩む。 理一さんはちょっとはにかんだような微笑みを浮かべ、繋いだ手の指を丁寧に絡ませた。
「アンリの夕飯も楽しみだけど・・・ちょっと遠回りして帰ろうか」
ゆっくりでいいよ (今から歩み寄ればいいんです、夫婦なんだから)
理一さんだって結婚は初めてなわけですから、手探りで夫婦やってればいいなという妄想
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