「太陽みるの久しぶり」
「・・・んあ?昨日も晴れてたろ?」
寝不足で重い瞼をこすって甲板に出れば、日向に照らされているオレンジのテンガロンハット。
シーツをひっかけたまま声をかけると、まどろんでいたエースは顔をあげずに返事をした。
風をたっぷりと孕んだ帆はたおやかに揺れている。
穏やかな海流にあやされ、一度覚めた頭がまた眠りに落ちそうだ。
隣のテンガロンハットも同じくゆらゆらと船を漕いでいた。
「・・・昔ね」
「ぉお」
「太陽が逃げてくと思ってた。どれだけ移動しても、距離が縮まらない・・・。
それが悔しくって悔しくって、追いかけて追いかけて走って」
「・・・。」
「『そりゃあ太陽はでけぇからな。お前がいくら走って追いかけたところで動じねぇよ』って親父に言われてさ、それ以来さすがにあきらめたの」
「さすが親父だ!言うことでけえ!」
「うわっ」
返事はないものだと思って話をしていたら、妙なところにだけ食いついてきた。
全く、船長を慕うのもいいがこの信者のような態度は何とかならないのだろうか。
・・・ならないだろうな。隊長とか地位が上がるにつれてひどくなっているし。
「でも、届きそうだよな」
「うん?」
「今日みたいにいい天気だとよ」
上を見上げれば雲ひとつない快晴の空。
ちょうど真上にきている太陽はその眩しさで形を見せないが、その光はちりちりと肌を焦がした。
光をさえぎるように顔を覆った手を見つめて、思わず
「あ、」(いけそう、)
伸ばした手のひらが大きく空を切った。
「「・・・・・・」」
「だめだった」
「お前寝ぼけてるだろ」
「・・・、実はまだ1時間しか」
「寝てろ、馬鹿!」
シーツの端を引っ張られてずてんと転んでさっきと位置が逆転する。
逆光でよく見えないが、エースは楽しそうに私に太陽の香りがするシーツを被せた。
そばかすだらけの呆れたような笑顔が真上で咲いて、思わずもう一度手を
手を
伸ばした、のに
「届くと、思ってたんだよぉ、
エース・・・!!!」
迷子の向日葵
(シーツを被せて、寝かせてくれた貴方にはもう、もう手を伸ばしても)