目の前でほこほこと湯気を立てる白粥を見て、アンリは睫毛をぱちりと震わせた。布団の傍ではいつも通り、いやいつもより気を張ったニコが得物を手に控えている。
 この離れにも小さな台所があるが、殆ど使われることはない。もはや本家の人間を一人も信用できないと意気込んだニコが、材料を自分で調達してアンリの食事をこしらえたのだった。

「……私、結婚するならニコがいいわ」
「ブッ!!」
「嫌?」

 椀の蓋を盆に起きながら、アンリは何の気なしにそう呟いた。突然の言葉に呆気にとられ、何も言えずにいるニコを振り返って首を傾げる。そう言われると、全くそうではないし、むしろと言ってもいいくらいだ。
 ニコは考えが細かいところまで及ばないまま、ぐるぐると目を回してともかく頷いた。それは嫌ではないという意思表示のつもりだったが、アンリは嬉しそうに微笑んで箸を取る。

「じゃあニコがお婿さんね!」
「は?」
「うーん、このお粥すごく不味いというか甘いね!お砂糖入れた?」

 箸を器用に粥を啜り、最初はそうだよねとうんうんと頷いて笑う。味はともかく自分のために用意された粥が嬉しいらしく、問題なさそうにどんどんと食べていった。
 一方ニコの頭の中はそれどころではない。もしや先ほどの言葉は彼女の「愛の告白」だったというのだろうか。そうだとしたら、自分は何て情けない男なのだと頭を抱えている。女性のほうから懸念を囁かせるなどあってはならないことだ。
 バン!と荒れた手を畳にたたきつけた衝撃で盆が一瞬浮く。何事だとアンリが目を見開いた先には、覗いた耳まで真っ赤にしたニコが、決意新たに勢いよく頭を下げていた。

「不肖わたくしは!貴方様に思慕の念を抱いており!今一度愛の告白をしたく存じます!!」
「ぶっ……ニコ、それじゃ時代劇だって!」

 一体いつの時代の殺し文句、と思わず声をあげて笑ってしまったアンリに、ニコの顔はますます赤くなる。対するアンリの頬も、熱い粥のせいかそれ以外か、ほんのりと桃色に染まっていた。それに気づいた瞬間、愛しさが胸を抜けて、ニコは本当に動けなくなってしまった。
 こほん、と少女が咳払いをして小さく微笑む。

「それじゃあ、ご飯がおいしくなったら結婚しようね」

 次の日からニコの猛特訓が始まったのは言うまでもない。

 

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