「別れてくれ」
「……え、……どうして?」


不機嫌なのかどうかすら分からない、いつもどおり尊大で我が儘な背中。放たれた言葉の意味がうまく脳みそまで伝達されなくて、前後不覚になりそうだった。
これって夢かしら?なんて淡い現実逃避は冷たい声にぐしゃり、潰される。


「何だっていいだろ?とにかく片方が恋人関係を破棄したいと言ってるんだ。僕達の関係はもう成立しない」
「……そう、なら………わかった。今までありがとう」
「……フン」



リセットボタン
シャットダウン
ブラックアウト、で全て無に帰す

自分の服、自分の本、自分のものは全て処分した。
住人の1人がいなくなり物が少なくなれば、部屋にも随分余裕ができた。明日は筋肉痛になるんじゃないかと思いながら彼の香りが染み付いたベッドに体を投げ出して目を閉じる。これで終わり。これでおしまい。
瞳と涙腺は至っていつもどおりで、ふわふわと落ち着かない気分だ。



ピンポーン。暗くなった部屋に響く、微睡みから私を呼び覚ます音。のろのろと起き上がると、彼が気に入っているからと伸ばした髪が左端にちらついて思わずため息をついた。

ドアののぞき穴を見ると、仗助が自慢のリーゼントの下で不機嫌に口を歪めて立っていた。ひゅっと息を飲んだあと、緩慢な動きでドアノブをひねる。


ガチャリ

「……はい」
「あ、遅くに悪ィ。露伴センセいるか?今日集まる予定だったのにドタキャンしやがってさ……携帯も繋がんねーし」
「知らない」
「知らないって、いねェの?」


仗助は不躾に中を覗き見た後、絶句して言葉を失ったらしい。ぐるぐる動く視線は部屋を一巡した後、恐る恐る私へと戻った。


「んだこれ……何もねーじゃん」
「すぐ出てくから」
「は?どうして……!」
「あの人がどうするかは知らないけど、別れた以上私がここに居る理由は無いもの」


目の前の整った顔は私の言葉に唖然とする。かつては彼を通じた親しい仲であったが、露伴という共通の「橋」が無くなった今、私達はどこか不安定な間柄であった。

数秒続いた沈黙の後、ぽつりぽつりと話しはじめた。別れを告げられたこと、この部屋に置いていた全ての自分のものは処分したこと。


「理由は分からないけど、露伴が私と恋人じゃないって言ったの、愛してるっていったのも、君は僕のものだっていったのも、全部無かったことみたいに……だから、全部、捨てるの。露伴との思い出なんて持ってたら辛いもの」
「理由がわからない?それでいいのかよ、あいつの浮気かもしれねーんだぜッ!」
「もぉ、いいの。いいの……わたし、私……」


ついに溢れた涙は、何も感情が高ぶったわけじゃないわ。仗助は痛ましそうな顔をぎゅっと引き締めて、力強く腕の中に私を閉じこめてくれた。
あぁ、この暖かさが。


「……よしよし」
「う、ぅあぁん、じょ、うすけ……ッ、苦しいよぉ、ひっく」
「あぁ、……頼むよ、お前に泣かれたらどうしたらいいかわかんねぇんだ」


だから、泣くなよ。
その声に確かな熱情が含まれていることを知りながら、縋るように制服のかたい生地に額を寄せる。大きな手がぎこちなく、癇癪を起こした子供を宥めるみたいに背中を撫でてくれた。その優しさが嬉しくて切なくて涙が止まらない。


1年間の長い時間がぱちん、弾け飛んで消えてしまった。
ああ、露伴先生、今まで本当にありがとう。



舞台裏は立ち入り禁止


だって、やっと手に入れたんだもの。




(ところで、例えばの話。
皮肉屋な男が試すように言った別れ話に素直に応じればへそを曲げて出かけてしまったり、うっかり彼が携帯を忘れたり、玄関の前で“元”恋人が他の男と抱き合っているのを呆然と見ていたのも、悲劇のヒロインにはまったく知り得ないことよね、あはは)








ちょっと実験的な小説でした。騙すようなタイトルとお相手表記で申し訳ない!露伴先生と見せかけて仗助がお相手でした。
最初から読み返してみてね




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