▼SS:DアンG/メローネ/プッチ/ホリィ/形兆/吉良
12/11(04:38)

 水族館の使われていない倉庫には、ある男の金庫がある。法にも守られていない、申し訳程度の鍵が付いた金庫。けれど誰も手を出さない。誰でも知っているということは、隠し立てはできないということと同じだ。そしてその金に手を出した者がどんな末路を辿るのか、皆よく知っているからだ。
 金は人を狂わせる。はじめはたった10ドルだった借金は、返せるアテなどない囚人の首を真綿のように締め上げ、目の前にある餌に飛びつかずにはいられないほど回らなくしていた。たかだか印刷所で刷られたただの紙切れにあらゆる欲望が絡みつく。金は人を狂わせるのだ。

 男は冷や汗を流しながら、やけに簡単に開いた金庫の冷たい扉の感触に高揚していた。ズタ袋に詰められた金は男が出所していたら一生遊んで暮らせるほどの額だ。息を荒く吐きながら、その紙切れに手を伸ばす。掴んだ。その瞬間、男の身体に異変が起きた。
 嫌な変化ではない。むしろ逆だ。心の底から湧き上がるような喜びや幸福を一身に感じて腹の中が震えた。もはや快感に近い。実際なんの刺激も受けていないというのにズボンの中で半勃起した感触に、何のためか分からない汗が吹き出す。手の中の札束を握りしめて背中を丸める。
 まな板に上げられた魚のように全身を跳ねさせ、身に余る幸福感に喘いで情けなく声を上げる。ふと光が目を刺した。ドアが開いている。背の高いシルエットは逆光のために顔が見えないが、それがこの金の持ち主であると気付いて、男は軽い悲鳴を上げた。

「やあ、ご機嫌はいかがかなDアンG。借金で首が回らなくなったってのは本当だったんだな?」
「てめぇ、え、はぁ、」
「何だか辛そうだな。気分が悪いのか。ところで、俺の金庫の金を返してくれないか?」

 ぎくりと喉を鳴らす。麻薬売人の男はしゃがみ込んで顔を覗き込んだ。糸のように細められた目の奥で、底知れない黒い瞳が捉える。男が圧倒的優位に立ちながら、わざわざ伺いを立てるところが、DアンGの動悸をさらに速めていた。ズタ袋を無造作に手を取り、彼の手の中から札束をするりと抜き取る。同時に手が背に置かれている。

「君は運がいいやつだ」

 もう一時間遅ければ死んでたぜ。
 男の機嫌が良さそうな鼻歌をBGMに、重い音を立てて再びドアが閉まる。DアンGはそのまま動くことすらままならず、ただそこで震える体を抱きしめていた。
 彼は二度と金庫に近寄らなかった。


(DアンGとハルイチ)




 私はこの男の言葉を一つとして誠実に受け取ったことがない。それは正しい選択だと思う。耳の裏に刻み込んだ劣悪を「素晴らしい」と褒め称える男の声など、微風のように抜けて行くだけだ。乱暴なディーバ、どうか歌ってくれよと囁く。殴りつけてもこいつは黙らない。
 私の身体には傷が残らない。私の身体は全て私のものだ。強請ることすらしないのは、そこにお前の語る愛とやらが存在しない証拠ではないのか。メローネ、どこまでも愚かな男だけれど、一番の不幸は私に惚れたことに違いない。傷を愛おしむのはやめたほうがいいと言っても、聞かないんでしょうね。

 暴力は嫌いだと言ったら、面白いジョークを聞いたように大笑いした。溜め息をつく。セックスは握手よりも味気がない。私はただ、私の傷を愛おしむこいつの心にだけ、その望みを叶えることによって応えているだけだ。愚かな男、ディーバを探すならもっとマシな相手がいるだろうにね。

(メローネとティラノ)





「軽率で、愚かで、何も知らない」許してくれ、と泣いて懇願する、男の言葉を反芻するように呟く。両手を伸ばせば自ら身を差し出す、彼は何も間違っちゃいなかったのに。 「俺は君のそういうところが好きだ」 目を細めるそれは邪悪そのもの。全ての元凶たる男。 「許してやるよ、勿論じゃないか」

(プッチとハルイチ)




(ホリィとその弟が子供のころ)
「ねえサルヴェ?サルヴェもおおきくなったら、けっこんするの?パパとママみたいに!」
「するんじゃねーの?」
「じゃ、わたしがおよめさんになってあげてもいいわよ」
「……やだね!おまえなんか!」
「えー!ひどい!」
「ホリィはもっといい男とけっこんすんだよバーカ!」

(ホリィと結婚しない弟)
「ねえサルヴェ?サルヴェって結婚しないの?」
「どォ〜だかなァ〜〜オレ様に相応しい美女が現れたら考えるぜ!」
「そう言っててもうオジサンじゃないのォー!早く結婚して承太郎にいとこ作ってあげてよ!」
「そこかよ!じゃ、若いころのお袋と結婚する」
「もう!」

(承太郎とその叔父)
「よォ承太郎!相変わらずハイスクール生に見えねえな!」
「叔父さんだって老けたぜ……」
「オレ様は紳士への道のりを一歩一歩踏みしめているんだぜ」
「叔父さんは結婚しねェのか」
「ホリィと同じこと聞きやがる!そーだな、お前が就職したらな」


(スージーとその息子)
「あなたったら、何で結婚しないのかしら?」
「スージーお袋までいうのかよ、ソレェ」
ついに敬愛する母親につっこまれ、サルヴェは座ろうとする母を支えながら苦笑いした。
「何ていうかよ、まだまだ色々起こる気がするんだよな。その時家族がいちゃ、動けねえだろ」

(聖なるかな/ホリィ・ジョースターの弟)





 記憶力に関しては良くも悪くもないが、家で帰る度に聞く名前と特徴くらいは嫌でも覚えるものだ。夕陽が差す教室で一人、静かにペンを走らせる姿。偶然通って見かけただけだがピンと来た、コイツだ。窓に手をついて眺め、暫し眺めていても飽きない程度の興味。

「お前が例の”ユイ”か?」

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「お前が例の”ユイ”か?」
最後の文字を書きいれた瞬間だった。顔を上げると、見覚えのないシルエット。
「え?あ、ハイ、小鳥遊ユイですが」
「そうか」

廊下に響く声が誰かに似てると思っていたら、そのままどこかに行ってしまった。誰だったのかな、と首を傾げた。

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「おい億泰」
「んあ?」
「お前、随分競争率高そうなヤツに惚れたな」
「………エッ!!?会ったのかよ、何でェーッ!?何してたどんなだった!?」
「日直だったらしいな、マブかったぜ」
「うえええ!!」
「うるせェ、お前が何度も言うから覚えただけで、他意はねぇよ」


(形兆と弟の想い人)





「「あ」」

 午前一時を回ろうという時。人気のベーカリーに既に人はまばらで、MIXサンドが一つぽつんとあるのを見つけたのは二人同時であった。その瞬間に「この人もあれが買いたいんだろうな」とお互いに察知し、動きが止まったのである。女は黒髪を少し揺らし、男の倣って目礼した。

「……ジャンケンします?」

 目鼻のはっきりとした瀟洒が、不意に悪戯っぽく歯を見せたのが男には意外だった。緩く握られた拳を他の客に見えないように差し出し、女は提案する。気品ある表情でたおやかに、しかし僅かに楽しげに男も手を出した。
 最初はグー、ジャンケンホイ!

「負けてしまったね」

 無害そうな顔で吉良吉影は笑い、どうぞとサンドイッチを譲るような動きをした。「どうもすいません」と飄々と勝者はトレイを出す。そして伸ばした手を見た瞬間、吉影に電流のような衝撃が走った。女の手は、美しかった。
 先程彼女はグーを出した。故に感じられなかった指先の細さや、その滑らかさや、或いは桜色の整えられた爪などが彼を蠱惑する。普通の感性であれば”綺麗な手ですね”で終わるはずのその動作だが、吉良吉影は「美しい手の女を殺さずにはいられない」性癖を持っている。

「じゃ」

 そう言って去ろうとする女の美しい手に、吉良は触れようとした。そうして店を出たあとキラー・クイーンの能力で手首以外を吹き飛ばし、殺害するつもりだったのだ。しかしあと数センチ、というところで伸ばした手は紙一重で空を切り振り返る。エメラルドの瞳が警戒を帯びていた。

「何か?」
「いや、袖に糸くずが付いているように見えたので……」
「あら、どうもすみません。でも、もう落ちたみたいね」

 男も女も、自他を欺き演ずることに長けていた。そのため不気味なほど摩擦することなく、静かに、二人は別れたのである。


(IF:吉良と昭子)





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