04:赤と白



『う〜ん』

ひとりの少女が、手の中のあるものを見て頭を悩ませていた。

『リン!どうしたんだ?』

そこへ駆け寄ってきた少年が、少女の手のひらの上を覗き込む。

『あ、ねえオビト、どっちがいいと思う?』

片方の手には、赤い花びら。もう片方の手には、白い鳥の翼。
少年は一瞬迷った。頭の中で想像してみても、どちらでもこの少女になら似合うと思ったからだ。

しかしよくよく見比べてみて、なんとなく、少年は白い方を選んだ。
はっとするような赤よりも、このまっさらな白の方が、少女に合っていると感じたのだ。

『うんうん、そっか!じゃあやっぱり、こっちにしよう!ありがとね、オビト!』


自分が選んだとも言えるそれを、実際少女が身に付けたらどんなものかと、少年は少なからず期待を膨らませていた。
だが、そんな思いは呆気無く裏切られ、数日後、彼が目にしたのは、思わぬ光景で。

『ん?…名無子、それ、』

『えっ?あ、これね、リンにもらったの!…変、かな?』

『…い、いやっ!悪くねェ、と、思う…けど…』



***



予定外の戦闘が重なった。
敵を深追いするデイダラに付き合っているうちに、想定外の消耗をしてしまった。

何処かで補給せねばと考えていた折、以前この近くに商人が住んでいたらしいという情報を思い出した。
日用品から食糧品、果ては忍具や武具まで、国を問わず様々な品を扱っていたという。

一先ずそこへ足を向けてみたはいいものの、辿り着いたのは寂れた海辺。
そしてそこにいたのも、一般人と思しき女ただひとり。

しかし、オレのことを訝しげに見ていたその女は、どこか覚えのある顔だった。
あまり食い下がり怪しまれても面倒だと早々に退散してしまったが、間違いない。
去り際、よくよく目を凝らして見た胸元に、眩しく光るペンダント。名無子だった。


あんなもの、捨て置けばいい。
そう自分に言い聞かせてはみたものの、一日中気にかかって仕方がない。
ならばいっそ、手中に収めるか。そう考え再び訪れた砂浜で、どこぞの刺客から襲撃を受けた。

オレは逆に、面倒事を一度に片付ける、いい機会だとさえ思った。
この気に障る女も、まとめて始末してしまえばいいと。

だができなかった。
忌々しい。苦虫を噛み潰しながら、オレは結局、その女をアジトへ連れ帰った。





「ここはどこだ」、「ここから出せ」、「なんでこんなことを」。
名無子を軟禁してから数日、幾度と無く罵声混じりに詰られたが、案外しぶとく気力を保っている。

喚き散らされるのも面倒だと差し障り無い範囲で疑問には答えてやったが、「意味が分からない」と言うばかりだ。

それにしても、自分の記憶の中にある名無子と、今目の前にいるこの女とでは、大分印象が変わったように思う。昔はただ、よくリンの後ろにいた、大人しいヤツだとばかり思っていたものだが。


どれほど経った頃か、初めは突っ撥ねてばかりだった態度が、いくらか大人しくなった。
懐柔策でもとることにしたのか、オレに語りかけ、諭すようなその態度は、やけに気に食わなかった。

「ねえ、オビト」

「……その名で呼ぶなと、言っただろう」

「でもあなたは、オビトなんでしょう?なんであなたが、こんなことをするの」

「……………」

こんなやりとりももう飽き飽きだった、だが。


「…こんなの……リンだってきっと望んでないよ……」


リン。
お前がその名を口にし、これ見よがしにペンダントを握り締める。その度にオレは苛々して仕方がない。
そのさも見せつけるような行為が、まるでこれはリンの形見なのだと言わんばかりの悲劇ぶった表情が、堪らなくオレを苛つかせる。

しかしまた、感情を逆撫でされると分かっていて、自らコイツに会いに来ているのも事実だった。
そんな己に嫌悪しながら、これからこの女をどうするつもりか、飼い殺しにでもするつもりかと自問してみるが、答えははっきりしない。

そうして名無子の元では時間が遅々として進まないように感じられた。
だが確かに、オレの計画は刻一刻と歩みを止めずにいるのだった。



(2015/03/30)


←prevbacknext→
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -