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野営を張った洞窟から出て空を仰ぐと、今日は雲ひとつない晴天だった。

「うーん、絶好の情報収集日和!って感じっスね〜」

隣で背伸びしながら足取りよく進んでいくトビを見遣る。
雨だろうが曇りだろうがどうせいつも喧しいこの男は、何を隠そう私の恋人だ。

私たちは、犯罪者集団“暁”の一員。
――といっても、私はあの名だたるメンバーと肩を並べているわけではない。

組織の規模や活動が大きくなればなるほど、どうしても些事をこなす人員は必要となってくる。
そんな“暁くずれ”と言えるのかどうかも怪しいうちの一人が、私だった。

そしてまた、恋人のトビもその一人であり、彼はいつしか実力を認められ正式な暁のメンバーとなった――はずであった。

「ちょい、名無子さんストーップ!!」

「えっ?」

いきなりグイと腕を掴まれたかと思うと、思い切り体を引き寄せられ、バランスを崩す。

「ちょっ、なにっ!?」

一気に近づいた距離に思わず頬が熱を持つ。

「名無子さんっ、いつものアレはっ!?」

トビは私の腰にさがっているポーチを指差す。すぐ“アレ”に合点がいった私は、ポーチを開けて“ソレ”を取り出した。

「ああ、ちゃんと中に入れてあるよ」

それは、トビが私と恋人となったとき、記念にプレゼントしてくれた花飾りだった。硝子で作られた白い小さな花が、何十と寄り集まって一つの房となっているそれは、私がお店で一目惚れした品だった。

「ハァ…なんだよかった。どっかに落としちゃったのかと」

「ごめんね、今日は結構動くかと思って、なくさないようにしまっておいたの」

普段はポーチの外側に付けていたから、トビは心配してくれたらしい。彼がこれを贈ってくれたときのことを思い出して、思わず笑みが零れる。

「んもうっ!なにニヤけちゃってんスか!」

「んー……トビが好きだなあって思って」

掌の中で白い花飾りがシャラリ、と揺れた。

この花が、そしてトビが、私に今日という一日を生きる希望を与えてくれるのだった。



***



その日は結局特に有力な情報も得られないまま、日が暮れる頃に適当な宿へ入った。安宿でも、まともに布団で眠れるのは久々で、十分有難かった。

「ふーぅ」

なんだかんだで結構歩いた。その割に実が伴わなかったせいもあって、徒労感がじわりと湧いてきていた。私はいそいそと二組布団を並べ、早速その片方にダイブする。

ふと視線を感じその元をたどると、荷を解いていたトビが、無言でこちらをじっと見ていた。

「どうかした?」

「布団。一組でよかったのになァと思って」

言わんとすることを理解して今度はこちらが無言になる。黙ってしまった手前どう繕っていいものか分からず、そのままカッとなる顔を枕に埋めた。

「名無子さんってば、もう当然のように相部屋とっちゃうのに。そんな反応、ズルイっスよ」

確かに、トビと一つ同じ部屋というだけでうろたえていたのはもう前のことだ。
赤らむ顔の熱を冷ますように意識を逸らしてみるが、トビがこちらへ動く気配を感じ、このままではまずいと咄嗟に身を起こす。

「あっ!もう二人で旅して一月になるんだね!」

ふと視界に入った日めくりの暦を大袈裟に指差す。そこには“1”が4つ並んでいた。この空気を打ち破るための適当な振りだったが、トビはそれを無視してこちらへ迫って来る。

そのまま暦を指していた腕を思い切り引かれ、元いた布団の隣の布団へダイブさせられた。

「だがこっちの方は大分ご無沙汰だったな……」

「!!」

突然いつもより低い声を耳元に吹き込まれ、身じろぎする。
そのオレンジ色の面をグイと外すと、普段は“トビ”という仮面に覆われた彼の素顔が晒される。

「オビトっ…!」

こんなときぐらいしか口にしない彼の本当の名を、抗議の意を込めて呼ぶ。

しかし私のそんなささやかな抵抗も、あっという間に彼の唇によって封じられてしまったのだった。



(2014/11/12)


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