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ゆらゆら ゆらゆら
揺れている――
――なにが?
水面、あの人の瞳。
……いいえ、これは、空。
空、そして、月。
ゆらゆら ゆらゆら
美しい月が揺れている――
――ううん、それとも、
揺らいでいたのは、私?
***
ドサッ
「 ふぅっ!?」
「名無子さん起きてー!」
やかましい高音と、のしかかる重量が私の眠りを奪い去った。
「名無子さんっ!おはようございますっ!」
「重いーっ……重いよトビどいて……っ」
いつもは愛おしく思うその温もりも、起きぬけとあって今は煩わしさしかない。
朧げに漂っていた不思議な夢の靄も、一気に吹き飛ばされた気分だ。
「ハァ〜〜〜」
低く唸りながら身を捩っていると、さも仕方がない、といった風で体の上から重しが退いていく。
しかし、なぜだろう。
完全にその体温が離れようというその瞬間、私ははっと飛び起きて彼の腕に縋った。
自分自身、その行動に驚いたくらいだから、彼はもっと驚いたことだろう。
しばし、沈黙。
「なあんだ、名無子さん、ちゃんと起きたみたいっスね!」
じゃ、さっさと支度して出かけましょう!
そう何事もなかったかのように私の頭をぽんと撫でた彼の掌の温かさに、なぜだか、ひどく、安心した。
(2014/11/11)