異界からの刺客


最近やけに目が霞む。当初は写輪眼の酷使による弊害かとも疑ったが、それだけではない。痒み……もあるが、他にも喉に少々異変を感じることがある。症状からして風邪という線も過ぎったが、まさかこのオレがさしたる理由もなく体調を崩すとは考え難い。

「ゲホッ、ゴホッ、まったく……ホコリだらけだな」

ただですらそれだというのに、オレは今、仕方なしにアジトの片付けに取り組んでいる。
まァ世の中が年の瀬だなんだとそういった雰囲気を漂わせていることの影響も否定はしないが、ちょうど探し物ついでに立ち寄ったところこのアジトの倉庫があまりに汚くてな。目的のものを探す以前の問題だったというわけだ。我ながら他所から集めてきた文献やら巻物やら忍具やら、見境なしに押し込み放り込んでおいたのだからこうなるのは当然だ。

「さて、と……こんなものか」

とはいえ、オレとて一から十まで腰を据えてやるほど暇ではない。ひとまず必要なものと不要なものとを大まかに分け、あとは“コイツ”で解決することにした。

「“神威”……!」

ズズズ……と、ホコリまみれの山たちがあっという間に渦に吸い込まれていく。フッ、自分のことながら毎度この神威の能力は重宝する。……だが。

「念のため、様子を見ておくか……」

アイツの顔を思い浮かべ、オレも渋々神威空間へと向かった。



「ゲッホ、ゴホッ、なにこれェ……」

着くやいなや、予想通りの反応がオレを出迎える。

「ちょっと、これなんなんですか!? ケホッ、ホコリっ、すごっ」
「いや、ゴミ……ではないのでな、一応。適当に掃除しておいてくれ」
「はあっ?」
「頼んだぞ、名無子」

間髪入れずに「勘弁してくださいよ」と腕を掴まれる。

「だって、ねえ? こないだから私、ちょうど大掃除していたばっかりなんですよ?」
「ほう?」

道理でこっちはこっちでやけに埃っぽいわけだ……と密かに顔を顰めていると、名無子はオレの背後を指差す。

「ほら、あの辺とか。頑張って掃除したばかりなのに、あなたのせいで、また! 綺麗にしたのが台無しです!」

振り向けば、薄暗い空間に以前コイツに整理を頼んでおいた諸々が積み重なっている。脇にホウキや雑巾が落ちているため、掃除をしていたというのはどうやら本当らしい。

「あーもう! ほらっ、ほら、ほらほらほらほら!」
「っ、おい、やめろっ」

名無子はハタキを手にするとヤケクソと言わんばかりに振り回し、辺りに一斉にホコリが舞う。

「ホコリまみれにされたくなかったらどいててください!」

結局引き受けるは引き受けるのか、と思いつつオレは神威空間を去った。



「ゴホッ、それにしても……まずは服を着替えるか」

先程から目の痒みもひどい。一旦面を外し、軽く洗うことにする。

「いや……待てよ」

洗面所で軽く顔を洗い、目を濯いだところで、はたと気が付いた。

(だが……まさか……)

近頃特に症状が酷いと感じていたのはまさに“神威を使った前後”だった。
そして名無子のあの言葉。最近あの空間の中で大掃除をしていたという――。

「……」

“神威”によって、オレは、余計なものまで出し入れしていたと。いや、可能性としては十分有り得るのだが、想像するとやけに目の痒みが増すようだ。

そもそもあの空間でホコリが生じるものなのか。そしてそのゴミたちは一体どこへと処分され、消えていったのか。謎は深まるばかりだ……。

だが、少なくとも。今の時点ではっきりしていることが一つある。

(あの空間で掃除をさせるのはやめよう……)

……オレの健康のためにも。



――それから数日間。オレは変わらず目や喉の痒みに苛まれることとなる。


「ええっ? 今度は掃除をするなですって?」
「そうだ」
「そんな、無茶ですよ。そもそもアナタが持ち込んだもののせいでこんなになってるんですよ?」
「我慢しろ」
「はああ……私がホコリまみれになってもいいっていうんですか!?」
「ああ、そうだな」
「ええ……」


END

(2017/12/30)

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