Twinkle twinkle white snow


「オビトさん、こっちこっち!」
「わかった、わかった、あまり走ると転けるぞ」
「大丈夫だって、ほら見て!」

前々からずっと楽しみにしていた。だって久しぶりに見られるっていうんだから、この白い白い雪景色を。

「うわあ……寒い! 懐かしい!」

ズボッと、積もった雪へ手を突っ込んだ私に、ちょっと呆れたような、「まるで子どもだな」なんて声が聞こえてくる。

「ふっふっふ……オビトさん、くらえっ!」

握り込んだ雪玉を目一杯投げつけると、ボスッと音を立ててそれはオビトさんの胸に直撃した。

「あれっ、避けないの?」

目を丸くしたのは私の方で、彼の方は驚く様子もなく、さっと胸元の雪を払い落とす。

「いや、避けるまでもない。確かに少々、冷たかったがな」
「……ふーん、てっきり怒られるかと思ったのに」
「大人なんだよ、お前と違って」

「ガキと本気でやり合う大人なんていないだろ?」と彼は厭味ったらしく宣う。

「……なにそれ、どうせ私は子どもです〜〜」

子どもだから思いっきりはしゃいじゃうぞ〜、なんて膨れた私に、なんだかんだでため息吐きながら、オビトさんは付き合ってくれるのだった。



『えっ、鉄の国まで行くの!?』
『ああ。……お前も行くか?』
『うん! 行く行く!』

――そんなやりとりがあったのが数週間前のこと。

『やけに張り切ってるな』
『ん? そうかな?』
『……そういえば、お前はあの辺りの出身だったか』
『えっ……、覚えてて、くれたんだ』
『……まあな』
『……えへへ。見られるといいなぁと思って、雪』



あれだけ楽しみにしていたからだろうか。オビトさんは、用事の合間を縫ってわざわざ、こうして時間をつくってくれた。

「はあ〜……なんか冬って、昔は嫌いだったはずなんだけど」
「そうなのか?」

とてもそうは見えない、と言いたげな彼の視線が痛い。

「そうだよ? だって雪なんて寒いし、邪魔だし」

でもね、と続ける。

「確かに子どもの頃は、雪だるまつくったり、かまくらつくったり、色々したなぁって」

もう何年前かな。なんだか感慨深いような、寂しいような気持ちが込み上げてきて、思わず遠くを見つめる。だってあの頃から、私は、私たちは、随分と遠くへ来てしまったもので。

そんな私の思いを感じ取ったのか、隣のオビトさんもちょっとしんみりした気配で黙ってしまったので、ぶんぶんと頭を振った。

「そうだ! かまくら作ろう!」
「は?」

何を言い出すんだコイツは、といったオビトさんの目が突き刺さるが、私はマジだ。

「大丈夫! 二人ならできるって! その有り余る体力と筋力はなんのためにあるの!?」
「雪遊びのためにあるんじゃない、ってことは確かだな」
「ううー、そんなこと言わないで! ねっ?」

お願い、と手を合わせる私にオビトさんは最終的に折れてくれたのだった。



* * *



「……はあっ、はあっ、持ってきたよ……水」
「おう」

それからどれだけ経ったか。最初は渋々、といった風だったオビトさんの方がいつしかマジで作業し始め、私の方がついていけなくなっていた。

「ちょっと……休憩しない?」
「ん? オレは大丈夫だ。あと少し……ここを固めたら――」
「……はあ」

幸い常に体を動かしているおかげで寒さはさほど感じないが、バケツの水汲みに何往復もしているせいで腰が痛い……。さすがにそんな私を見かねたのか、オビトさんは一旦スコップを置いた。

「なんか買ってきたらどうだ」
「え?」
「そろそろ……飲み物でもほしいところだろ?」
「うん……そうだね」
「ついでに少し、休んできたらいい」
「……ありがと」

本当はオビトさんが「飲み物がほしい」だなんて嘘なのはわかってるけど。今は素直にそのお言葉に甘えることにした。改めて、彼のそういうところが好きだなあって噛み締めながら、私は買い出しに向かった。



「……さて、と。こんなもんかな」

近くの町まで足を運ぶと、もうすぐお祭りがあるらしく、賑やかに飾られた出店が軒を連ねていた。おかげで飲み物どころか土産物やら何やら色々と余計な買い物もしてしまって、思ったより時間が過ぎてしまった。

「……ふふふっ。また今度来れたらいいなぁ、二人で」



私が戻る頃には、すっかり日は暮れてしまった。暗くなった中、目を凝らしながら彼を探す。

「オビトさーん! オビトさんー?」

「――名無子!」
「あっ、オビトさん!」

ひょっこりと、どこからともなく顔を出した彼へ駆け寄る。

「うわっ、これ!?」
「ああ、どうだ? 完成したぞ」

遠くからはよく見えなかったけど、オビトさんはちょうどかまくらの陰に隠れていたようだ。

「これ、すごいね……もう入れるの?」

本当なら一晩きちんと固めたほうがいいのだろうけど。身を屈め中を覗くと、既に小さなテーブルまで用意してある。

「二人ならギリギリ入れるんじゃないか?」
「……どうかな?」

よいしょ、と私が足を踏み入れると、続いてオビトさんがぎゅうぎゅうと体を押し込んでくる。

「ちょ、ちょっと待って……」
「キツイな……まあ入れんこともないか」
「うっ、うん……そうだね……」

まあ、なんとか入れたは入れたんだけど。近い……近いのよ距離が。

「意外と寒くないもんだな」
「あっ、でしょ? 中は結構あったかいんだよね〜」

「で、なに買ってきたんだ?」
「そうそう、ちょうどロウソクとランタン買ってきたんだ。あと飲み物とかお菓子とか――」

テーブルの上にそっと明かりを灯すと、なんだか急にぐっとくるような、幻想的な雰囲気が漂う空間に様変わりした。

「うわあ……なんか、すっごく素敵だね」

チロチロと揺れる炎の影が、真白い雪の壁に映える。

「ふふっ……オビトさん、ありがとう」
「いや……」

隣に目をやると、やけに優しい目つきで彼がこちらを見ていたのでドキっと胸が跳ねる。

「名無子……」
「オビトさん……」
「……、――」
「……ス、ストーップ!!」

グイグイ縮まる距離に思わず、待ったをかけると、あからさまに不機嫌そうに彼は眉を顰めた。

「なんだ、名無子……」
「ほ、ほらっ! 名物のおまんじゅうとか買ってきたから、せっかくだから食べよっ?」
「……結局は食い気か、お前は……」

そう言いつつも彼は、私が買ってきたまんじゅうを頬張った。

「ね」
「うん?」
「前はさ、オビトさんの髪の毛もこんな、真っ白になってたよね」
「……」
「今はもうすっかり黒く戻ってさ……なんか今思うと、あれはあれで結構好きだったかも、って」
「フッ……なんだそれ」
「あ、ちょっと笑わないでよ、真面目に言ってるのに。もう!」
「白髪ならまたいつか、嫌でもなるさ。オレがジジイになる頃にはな」
「……ふふっ! そう、だね」



* * *



いつしか空にはすっかり夜の帳が下りていた。
うとうととし始めていつの間にか彼に寄っかかっていた私を、「そろそろ帰るぞ」とオビトさんは優しく揺り起こす。

「ん……さむっ、」

かまくらから出ると、かじかむような寒さが一気に襲ってくる。お互いに吐く息は真っ白だ。

「ほら、大丈夫か」
「うん……あっ、見て」
「ん?」

見上げると、どこまでも冴え渡る冬の夜空に、数え切れないほどの星々が煌めいている。

「すごいね……綺麗……」

不意にオビトさんが肩を抱き寄せてきて。私もそれに応じるように、頬を寄せる。

「ねえ、また……これからもこうして、二人で過ごせたら、いいね。ずっと……二人とも白髪になっちゃうくらいに、さ」
「……ああ」
「今日は、ありがとう。オビトさん」
「ああ……」


雪の中、二人で寄り添って歩いて行く。
どんな寒さに晒されても、この人となら平気な気がした。


「帰ったらゆっくり温泉にでも浸かろう」
「あっ、いいね!」
「さっきはお預けだったからな……」
「……え?」
「雪の露天風呂でしっぽり……定番だろ?」
「うっ……それ、今の雰囲気で言う? せっかくときめいてたのに……その顔やめて」
「なんだ。でも嬉しかっただろ?」
「は?」
「そういうオレが好きなんだろ、お前は」
「うっ、うっ……、それ、自分で言わないで」

図星か、と笑う彼に、全身赤くなってしまうようだった。


END

(2017/12/24)

*Thanks for your request !
生存ifオビトで雪の中の散歩/ほのぼの甘


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