打ち棄てられしもの
「……」
「……おい」
「……」
「……ハア、なんなんだ、全く」
神威空間に住む妙な女、名無子。全く一体全体どういうわけでコイツがこの場にいるのかさっぱり理解できないが、オレはひとまずその事実、現実を受け入れてやることとした。こんな小娘に感けて時間を浪費するよりは、賢いやり方があるというものだ。
「……前に頼んでおいた物はどうした」
そう。せっかくなのでオレは、この女を利用することにした。
「古本と巻物、数十ほどあっただろう、どこへやった? 整理しておけと言っただろう?」
「……、……」
自分でこう言うのもなんだが、オレは神威空間を便利な物置のように扱っていた節もあってな。
名無子と和解した、というよりは共生の道を選んだ――とでも言おうか、ともかくオレは、名無子に危害を加えない代わりに、体よく小間使いとすることを提案した。そしてそれをコイツも承諾した。……のだが。
「何を拗ねている、飯か? 腹が減ったのか?」
「……私を子ども扱いしないでよ、ふんっ! 別にお腹は減らないって前にも言ったでしょ」
「…………」
ああ、そうだったな。お前がどうも飲み食いどころか寝食自体必要としないらしい、という摩訶不思議な事実は信じたくないが信じよう。(柱間細胞を持つオレがこんなこと言うのも変な話だがな……。)
それにしても以前あれだけ団子に執着していたことから半ば餌付け紛いのやり方を試みたところ成功してしまい困惑している、というのは余談だ……いかんせん此奴の生態は理解しがたい。妖かしの類か?
「……、だって、あんな……あんなのって、ないよ」
「……?」
そっぽを向いていた名無子が、ぽつぽつと語りだす。
「物置にするくらいは全然いいけどさ……ゴミ捨て場にするなんてひどくない? 私だって住んでいる場所なのに」
「……と、いうと?」
しらばっくれないでよ、と名無子は頬を膨らませる。
「こないだ色々捨てたでしょ? あれの処理すっごく困ったんだから」
「……、何の話だ?」
「な、なによ、みなまで私に言わせる気?」
……全く要領を得ないのだが、急に名無子は顔を赤らめる。
「そ、その……普通のゴミとか、古着とか紙クズとかならまだいいよ? でも、ああいうのはちょっと……」
と言って指差した先にあったのは。
「……本、か?」
一見それは本か雑誌の類だった。だが少なくともオレに見覚えはない……というか待てよその表紙は――
「お、男の人だからこういうの読むのは仕方ないけど……わざわざここに捨てなくたって、その……こんな、えっ」
「いや待て、おい、それはオレじゃない」
「……ええ?」
……思い当たる節はただ一つ。
「……クッ、カカシの奴め……!」
聞けばオレの知らぬところで名無子は色々とゴミ処理に苦心していたようだ。やはりこの世界で生きながらえたヤツはみなクズになる……。
「にしても、だ」
「?」
「お前結局オレの本やらはどうしたんだ?」
「捨てた」
「は?」
「うそ」
「…………」
「こっち」
名無子が案内する先へ渋々付いていくと、不意に名無子は座り込んで足元を探り始めた。
「ここ、はい」
「――、っ!?」
オレとしたことが思わず驚愕してしまった。なんと足元が扉のように開き収納スペースが現れたではないか。
「ここに全部入ってる」
「……そ、そうか」
「ちなみに、他のゴミはどう処分したんだ?」
「え? 普通に捨てたよ、ポイって。下に。全部運ぶの大変だったんだから」
「……そうか……」
フッ、神威空間……。オレの知らない謎がまだまだ眠っているようだな……。
「じゃあな、このいかがわしい本はオレが処分しておく」
「えっ!」
「……なんだ? 興味あるのか?」
「そ、そんなこと言って……興味あるのはそっちでしょ! どうせ持って帰って今から読む気なんだから! 私はもう全部読んだしっ、そんなものいーらないっ!」
コイツ、全部読んだのか……。
つづく?
2017/11/23