※現パロ夢です。まったくえろくはありませんが微妙に大人向けな描写を含みます。



幼馴染のうちはオビトから、数年ぶりに連絡がきたのがちょうど一週間前のことだった。

「久しぶり」

「おう、元気だったか」

「うん。そっちこそ、色々あったみたいね」

トントン拍子に話は進み、二人で飲みに行くことになった週末、午後八時。

「なんだか、変な感じだね。お互い、いつの間にか、成人も過ぎてて」
「ああ……そうだな」
「オビト、こーんなに背が高くなっちゃって、びっくりしたよ」

ガヤガヤと賑やかな居酒屋では、ともすれば二人の話し声はかき消えてしまいそうだった。

「名無子、最近どうなんだ」
「どう、って。まあまあ、ぼちぼちだよ。オビトは?」
「オレのことなんかいいんだよ。今日は、お前の話が聞きたいんだ」
「なにそれ」
「ほら、例えば……お前、彼氏の一人でもいないのか?」
「あのねぇ……もしいたら、こんな男とサシ飲み来ないって」

はは、と笑ってみせたオビトの声が、どこかザラついていた気がする。

「……男、か」
「?」
「お前は一応、オレのこと“男”と見てたんだな」
「当たり前、じゃない」

……そうだよ。ずっと、ずっと、私は、オビトのこと“男”として見てた。一人の男として、見ていた。けれど。

「なあに? そっちこそ、私のことは女と思ってなかったとでも言いたいわけ?」
「はは、さあ、な」

図星でしょ。
……ううん、違う。ちょっとだけ違う。オビトはきっと、そう“思わないようにしていた”。私からの好意を、遠ざけるために。わざと、知らないふりをしてたんだ。


なのに、ずるいよね。こんなときばっかり呼び出して、「会いたい」だなんて。今更。ほんとうにずるい、こんなにかっこよくなってるなんて。

ムカつくから私も、今ばっかりは、知らないふり。

氷の揺れるグラスを、一気に煽った。



* * *



別になんということはない。

私はオビトを好きだった。オビトはリンを好きだった。ついでに、リンはカカシが好きだった。

ただ私は自分の好意を隠して、ひたすらにオビトの恋を応援した。応援する、ふりをしていた。どこかで正直、叶わなければいいなって思ってた。
オビトはオビトで、そんな私との関係がそれなりに心地よかったんだと思う。今思えばバレバレだったんだけどさ、私の態度。でもオビトは“知らないふり”をしてくれていた。

一見鈍そうなくせに、オビトってば、きっと気づいてたんだよね。だからきっと、私たち、それぞれ別々の学校へ進学してから、急に疎遠になったんだ。

それでも私は、心のどこかで、ずっとオビトを想っていた。いつかまた、チャンスがあるんじゃないかって。期待していた。だから久しぶりに連絡があったとき、私ほんとうに飛び上がるくらい嬉しかった。


たとえそれが、寂しさの埋め合わせでもいい。今は、見ないふりをして。お酒のせいにして、酔いのせいにして、雨のせいにして。



* * *



「……お邪魔しまーす」
「いやぁ、にしても……急に降ったな」

ひとまず一次会はお開きにして、さぁ次へというときだった。お店を出てすぐ、どっとにわか雨に見舞われて、私たちはずぶ濡れになってしまった。

「風呂、入っていいぞ。沸かすから」
「そんな、お構いなく」
「つっても、風邪引くだろ。シャワーだけでもしとけって」

オビトの家が近いからということで、そのままお邪魔する流れになって……押しに負けて、ついでにシャワーまで借りることになった。

(……いいのかな、これ……)

我ながら無防備といえば無防備な気もするけど。ぬるいお湯を浴びながら頭を振る。

(あ、そういえば、タオル)

念のため、すりガラスの向こう側を確認しつつ脱衣所を伺うと、いつの間にか、白いタオルが置いてあった。

(……オビトの匂いがする……、)

私は変態か、と自分を茶化しながら部屋へ戻ると、オビトが少し慌てた様子でジャケットをソファに置いたところだった。

「上がったか」
「ん」
「じゃあオレも、少し浴びてくるから。休んでていいぞ」
「うん」

そう言って足早に出て行ったオビトが、ソファに被せるようにして残していったジャケットに自然と目が行く。

(なんで、今持ってたんだ……?)

さっき一度、脱いでハンガーにかけたはずなのに。どうして彼はまたこれを手にしていたんだろう。

(まあ、とりあえず、干しておこう)

このままじゃソファが濡れちゃうし、と手に取ったとき、ガサッ、と何かが床に落ちた。

「?」

まるで隠すようにジャケットに包まれていたそれは、ビニール袋だった。描かれたマークは、そういえば、ここへ来る間に見かけた気がする。そう、すぐ近くにあったドラッグストア。ピラリ、と一緒に落ちたレシートにも、確かにそこのお店の名前があった。

別に見なくてもいいのに、思わず目を走らせてしまうと、それは昨日の日付のもので。

「……、」

その瞬間、私の中で“なにか”が決定的になった。


袋の中身は、コンドームだった。



* * *



別に今更、「不潔!」なんて騒ぐような歳でもなかったし。かと言って「ヤる?」なんてあけすけになるほどの勇気もない。ああ、でも言ってしまえば“願ったり叶ったり”な状況でもあるわけで。
どうしてか寂しいような、悲しいようなそんな気持ちもあったけど、でもオビトがやっと私を“女”として見てくれたのかなって、じんわりするところもあった。

だから私は、お風呂から出てきたオビトとすぐに抱き合った。

「どうしたんだ?」
「私、酔っ払ってるの」

そんなわけない、酔いはとっくに醒めてる。オビトだってわかってた。でも、知らないふりをしてくれた。

「名無子……」

本当に、ずるい人だよね。こんな男らしい腕で、熱っぽい瞳で、迫られたら逃げる気なんてなくなっちゃう。それが本来は、別のひとに向けられていたものだとしても。

いいんだ、私。都合のいい女でも。オビトが今、人肌恋しくて、誰でもいいから愛されたい、そんな気持ちになっているだけだとしても。むしろそれを、利用するのが私なんだよ。なんて、強がってみたりして。

彼との初めてのキスは、なんだか苦い味がした。



* * *



翌日、帰宅して真っ先に、私はあるハガキを探した。

ちょうど十日くらい前かな。家に届いていた、かわいいイラスト付きのハガキ。

“結婚しました”

幸せそうな写真の横には、「リン」の名前と「旧姓 のはら」の文字。


「……知ってたよ」

最初、オビトから連絡がきたとき。この話をするのかなあって思ってた。でも、しなかった。彼は一度も「リン」とは言わなかった。

せめて、笑い飛ばしてくれればよかったのにね。自虐混じりでもいいから、ネタにでもしてくれればよかった。でもそれすらできないくらい、事は深刻なんだって。ああ、彼は重傷なんだって、すぐわかったよ。だから私も、素知らぬ顔で、オビトに合わせた。でも、知っていた。本当は、傷心のあなたが、誰かに縋りたいだけなんだって。知っていた。もしかしたらオビトは、私が感づいていたことすら気づいていたのかもしれないけど。

「でも、いいでしょ」

ずっと私の気持ちを、知らないふりしていたんだから。お互いまだ、なにもかも、知らないふりで。

あなたが欲しいと言うのなら、いくらでもあげる。「好きだよ」の笑顔も、「愛してる」の囁きも、全部ぜんぶ、わたしがあげる。

だから今度は、私が知らないふりして、あなたのところへ行って、また。恋人みたいな顔して、抱いてもらっても、いいよね。


END

(2018/07/09)

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