SEE YOU TOMORROW!
※映画RTNのネタを含んでいます。ご了承の上お読み下さい。「あーッ! ほら名無子さん、早くソイツから離れて下さい!!」
「ハッ……」
「ムキーッ! なんかボク鼻で笑われてますけど!? ねえ名無子さん!?」
「いたっ、痛いってトビ! そんな引っ張らないで!」
……あー。なんなんだろう、今この状況は。
私は名無子。犯罪者集団“暁”の一員で、任務中、恋人であるトビと共にとある宿へと立ち寄った。そこで一晩を過ごして……そう、ここまではなんとなく覚えている。けれど問題はその後。どうしてこんなことになったのか……。記憶を数十分ほど前に遡る。
「名無子さァーん!! 起っきてー!!」
「……うぅ〜ん……?」
ガンガン! 激しくドアを叩く音で、私は心地よい眠りから無理やり引きずり起こされた。
「名無子さぁん! 愛しのダーリン、トビですよ〜!!」
いつの間にかすぐ傍まで来ていたその声は、確かに間違いなくあの“トビ”であった。けれど、仕方なく身を起こそうとしてはじめて、私は妙な違和感に気が付いた。
「ん……? え……?」
腰に何か巻きついていて、動けない。
おかしいな、にしてもなんだかこう、あったかいというか、これは……と、首をひねって振り返れば、私は思わず仰天した。
「おい……名無子……あまり動くな。寒い……」
「え? えっ……、え?」
そう。布団の中で、私の身体に腕を回していたのは。
「オビト……!?」
驚いて目を丸くしていれば「うるさい」とオビトに布団へ引きずり込まれ、後ろからぎゅっとホールドされてしまう。
それを見た眼の前のトビがぎゃあぎゃあと騒ぎ出すからさあ大変。
そして話は冒頭へ戻る――のだが、にしても、やっぱりいくら状況を整理してみてもさっぱり飲み込めないぞ。なんなんだこれは。なんでトビとオビトが別にいるんだ?
「もぉーう名無子さん、こうなったらボクだってー! 実力行使ですっ!」
「うわっ!」
突如、トビが布団へ飛び込んできて。そのままぐいぐいとこちらへ迫ってきて、正面からぎゅうっと抱きつかれる。
「はア〜〜、名無子さんぬくい〜〜」
「ぐっ……、ちょっと、くるし、」
勘弁してくれ。
普段ならそう、可愛らしい恋人同士のスキンシップとでも済まされるのかもしれないが。今は後ろに“オビト”もいる。一つ布団の中に大の大人が三人、しかもそのうち二人は男ときたら、狭っ苦しくてやってられない。その上前からも後ろからもぐいぐいと圧迫されて、ろくに身動きも取れない。
「おい……名無子。こっちを見ろ」
しかもなぜか背後のオビトが徐々に機嫌悪そうな空気を醸し出していて、もう逃げ出したい。
「ベー、っだ! 名無子さんはボクの方が好きですもんね〜?」
トビはトビで無駄に挑発的な態度だし、なんなんだコイツら。コイツら、というか本来は一人、同一人物のはずなのに、本当なんなのよもう。呆れ返りそうになりながら、ふと、トビのセリフが何かに引っかかる。
(ん……待てよ……?)
そうだ。そうだ昨晩、寝る前のぼんやりした記憶が蘇る。
『はー。これだったら私トビの方がよかった!』
……ああ確かに。私そんなことを言った気がする。更に思い出したことには。
『全く……いい加減にしろ、我儘を言うな』
『だって……だってオビト、最近全然かまってくれないじゃない』
そうだった。近頃、トビ――というかオビトが、どうも何らかの実験か研究だかに没頭していて、全然私のこと構ってくれないから、だからそれでちょっとした言い合いになったんだった。……ということはつまり。
「……怒ってるの?」
恐る恐る、口に出してみたけど。二人ともしん、と黙ったままだった。
「ねえ……トビ、オビト……? 私が昨日わがまま言ったから、だから――」
「それで怒ってるの?」と言うやいなや、バンッ! とこれまたものすごい勢いでドアが開き、ズカズカと人が押し入ってくる。
「おい、いい加減にしろ。お前たちの下らんやり取りにはウンザリだ」
「えっ……えぇー!?」
そんなまさか。目を丸くした。だって、ドアを蹴破って入ってきたのは。
「まさか、マダラまで別々なの!?」
勘弁して! と叫ぶ暇もなく、やって来たマダラに腕をとっつかまれ、そのままズズズ……っと神威で吸い込まれた。
* * *
「ちょ、ちょっと! もう、これどういうことなの?」
神威で飛ばされた先は、宿からそう遠くない路地裏。
混乱する私をよそにトビ――いや、マダラか。ややこしいな。ともかくコイツは嘆息して首を振ってみせる。
「どういうことも何も、な。お前こそこんな下らん願望をオレに見せてくれるなよ。全く不快だった」
「は……はああ?」
偉そうな態度はいつもにしても、言っていることがわけ分かんないしこっちこそ不快だよ! と、全力で言い返しておいた、心の中で。
「お前は人の話を聞かんからな。いいか。説明してやる。今この世界はまやかしに過ぎない」
「は……はああ?」
なんなの。思わずさっきと全く同じ反応しちゃったじゃない。まるで私が馬鹿みたいな。
「この間から言っていただろう? “限定月読”だ」
「げんてい……つくよ……、あっ、ああ!」
そうそう、それ! 私の頭の中ではパッと絡まっていた糸が解けたみたいに疑問が繋がった。
「そうだよ! 確か私、最近オビトが限定なんちゃらがどうのこうのって言って全然構ってくれないから、だから……」
「ちょうどその術が九割ほど完成したのでな。お前で試してみたというわけだ」
「え……えぇー?」
それって、どうなのよ。ちょっと酷くない? だって恋人の私を術の実験に使ったってことでしょう、しかも無断で。
「……というか、じゃあ今目の前にいるアンタは……」
「オレは元の世界の存在だ。先程の奴らがお前のつくり出した“願望”ってやつだな」
うーん……? なんとなく状況が飲み込めてきたような、そうでもないような……?
「にしても、だ。オレとオレに挟まれてヘラヘラする様は至極不快だったぞ、名無子」
不快不快って、さっきからどんだけ不快だったのよアンタは。というか「オレとオレ」ってそりゃそうだけど、どんな表現よ。
「なによ……元はと言えば、そっちが悪いんでしょう? もういい! じゃあ私はここの世界で暮らします!」
幻術だかなんだか知らないけど。こんなに冷たくされるくらいなら、まやかしだっていいから優しくしてくれる方がマシ!
そう思い勢いで駆け出すと、私は行く宛もなく小さな路地を飛び出した。
後からマダラは、追ってこなかった。
……やっぱり、私のことなんて、どうでもいいんだ。
* * *
「ふんっ! なによ」
ポチャン! 小石が水面を跳ねて、音を立てて沈んでいく。
走って走って、辿り着いたのは人気のないどこかの河原。
「はああ……」
思いっきり溜息をついて、揺れる水面を覗き込めば。冴えない顔した自分が映っている。
しばらくじーっと、何をするでもなくそれを見つめていれば、不意に、微かに物音がして、視界に派手なオレンジが映り込む。
「名無子さん、ここにいたんですね」
私と並ぶように、水面ににゅっと現れたのは、さっき置いてきたはずのトビだった。
「トビか……」
「なんか元気ないっスね? アイツに何かされたんですか!?」
「いや、うん、ね……」
「なんでも相談して下さいよ!」とトビは胸を張るが、そもそも。同じ人物のことを本人に相談する、ってどういうこと? そういうのアリなの?
「……でも、さ、やっぱりトビくんは、いいよね」
「え?」
「なんていうか……一番付き合ってくれるというか。構ってくれるというか」
なんだか改めて言葉にしてみると、自分がちょっと大人気なかったかな、とか。思ったりもするけど。
「やっぱり名無子さんボクが一番好きなんですか?」
「んー? んんー……」
「そこは即答して下さいよ!」
「あはは」と笑っていればトビは「ぷんぷん!」と怒るフリをして、こんな他愛ないやり取りで肩の力が抜けていく気がする。
「誰が一番とかは決められないよ。全部ひっくるめて好きだから……だからこそ、本当は、自分も思われたい、ってことなのかなぁ」
「……」
「忙しいとか時間がない、ってのもわかるけど……言葉でも態度でも、なんでもいいから。少しでも思われてる、っていう証がほしいのかも」
なんてね、と茶化してみれば「なあるほど!」とわざとらしい返事がかえってくる。「本当にわかってんの」と小突いてやれば、イタタ! と大袈裟なリアクションを見せるトビに大分救われた気分だった。
「とりあえず名無子さん、一旦戻りません?」
「ん、そうだね」
戻る、つってもまず宿に帰ってそれからどうするかだよね。あの宿にまだ、オビトもいるのかな。
考えながら踵を返して隣のトビを見上げると、おもむろに仮面に手をやってぐいっとずり上げた。
「それじゃあ帰るぞ、名無子」
「えっ?」
ぐにゃり。見慣れた赤い瞳と目が合えば、視界も意識も、あっという間に歪んで世界が崩れ去った。
* * *
「……ん、んぅ……?」
……なんだろう。妙に頭がクラクラするような。
すごく不思議な夢を見ていたというか、深く深く眠っていたというか。そんな感じでどうにもモヤモヤする。
「起きたか、名無子」
「……オビト」
部屋の向こうからこちらを見ているのは、いつもと変わらぬオビト。
「オレは少し出かけてくる」
「……うん、わかった……」
「いよいよ大詰めだからな。あとは微調整をすれば……完成の日も近い」
そう言いつつ手にしているのは、あの、あの……!
「あ、ああっ! それは!」
オビトが持っている水晶玉。それを目にした途端すべてを思い出す。
「限定月読! ってあれ、ん? 私、帰ってきた……の?」
頭の上にたくさんのハテナを飛ばしているうちに、オビトは手際よく身支度を整えていく。
そしてさっさと出て行ってしまう……と、思いきや。
「あぁ、忘れていた」
「?」
急に振り返って、ずいっと私の目の前までやって来る。
「……悪かったな」
「……え」
思いがけない言葉に、マヌケな声が出た。
「術の完成が早ければ早いほどお前に割ける時間も増えると思っていた」
「え……?」
何を言っているんだろう、なんてぼんやりしていたらオビトの素顔が迫ってきて、すっと髪を払われて、額に、ふっと、唇、が。
「……行ってくる」
ニ、とあのいつもの、口の端を歪めたような笑みでオビトは。
「……ああ〜〜どうしよう私っ、まだ幻術!? やっぱりまだ限定月読から戻れてな――あ痛いぃ!」
「黙って休んでいろ。もう二度とお前に優しくなどせん」
END
(2016/12/24)
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恋人設定/オビトとトビが分裂して3人でドタバタ過ごす話