隅から隅まで



……背中が、かゆい。

なんかもうこの時点で嫌な予感しかしないんだけど、というか完全にデジャヴを感じていたんだけど。どうしてか急に背中がかゆくて仕方がなくて、適当に作戦会議を抜け出してアジトの個室に逃げ込んだ。

さあこれで思いっきり掻いてやるぞ、意気込んでマントを脱いだ瞬間、ものすごーくイヤな気配を察知した。

「名無子」

……やっぱり……。ギギギ、とゆっくり振り返ってみても、現実は変わらなかった。

「あのぉ…マダラさま…なぜここに…?」
「それはこっちのセリフだ」

勿体ぶった様子でマダラさまは語る。

「いや、お前が急に出ていくのでな。体調でも悪いのかと案じて来てやったわけだ」
「それはそれは……心配ご無用ですので、どうぞお戻りくださいマダラさま」

いい加減かゆいので…。なんて心の声が届くはずもなく、「遠慮するな、隠すこともないだろう?」とかなんとかマダラさまはにじり寄る。もうなんだか何もかもが鬱陶しくて面倒になったので、開き直って堂々と明かすことにした。

「本当に、ただかゆいだけなんです!背中が!だから気にしないでください!」

……しーん。
なんでしょう、急に、黙らないでくださいよ。大声出しちゃった私が恥ずかしいじゃないですか。

「そうか……ならさっさと掻け」

ええ…。掻け、ってそんな…。というか、

「そんなに見られてるとやりづらいのですが……」
「気にするな。オレは気にしていない」

いや、なんかもう…いいや。せめてもの抵抗に背中を向けて、手をぐっと後ろに伸ばした。……んだけど。

(う……なんか……微妙、に、届かない……)

隅の方、というか絶妙に手が届くような届かないような感じで、見られている、というやりにくさも相まって控えめに掻いてはみたもののどうにもスッキリしない。

「おい、まだか」
「もう…ちょっと…!」

はあ、と大きな溜息が聞こえてきて、「これでも使え」と肩を叩かれた。

「エ…孫の手…!?」 

ズズズ…っとマダラさまの顔のあたりが歪んで、飛び出してきたのは孫の手。…この人、神威空間を一体何に使ってんだろ…。

というか、一瞬有り難い気もしたけれど、孫の手使ってバリバリ背中掻くとか、かえって恥ずかしいじゃないか。躊躇して受け取れずにいたら「使わないのか」とマダラさま。

「ハア。面倒だ。仕方がない、オレがやってやろう」
「え。ちょっと待っ、う、」

めちゃくちゃ不穏な言葉が耳に入り、身構えたものの強引に壁に押し付けられ身動きが取れない。

「そうだな……このあたりか?」

「…ッ、ったい、痛いっ!!」

何事かと思った。ギギギ、って、音がしたんじゃないかってくらい、掻かれた、孫の手で。

「うっ…やだ、ちょっと…背中…っ」

どんな力でやったんだ、ものすごくジンジンとしてきて、もしかして跡が付いちゃったんじゃないかって心配になる。流石に、出血するほどではない、と思うんだけど…。

「すまない、オレとしたことが、力加減を誤ったようだ」

少し涙目になっていたら白々しい声が聞こえてきたが今は文句を返す余裕もない。

「どうしよう…ちょっと私…鏡…背中…っ、」
「ああ、少し待て」

ひとまず部屋を出て、どこか鏡のあるところで確認してこよう…と考えていたら、ひょいと首根っこを掴まれた。

「え、と、マダラさま…?」
「どれ」

ぐい、っと。後ろ襟を掴まれて強引に引っ張られ、スースーした外気が項に触れた。

「っ、やっ、めっ!」
「フム……これではよく見えんな」

今度は前に手が回ってきて、胸元のファスナーに手がかかったので全力で阻止した。

「いっ、いいです!マダラさま! っ、大丈夫ですから!」

「そうか」とすぐ後ろで小さく笑う声がして、カアっと頬が熱くなる。なんでこういうときに限って、首周りに余裕のあるタイプの服を着てたんだろう…。

「まあ、身体に多少跡があるくらい、オレは気にせんがな」
「なっ、」

「むしろ唆る」なんて耳元で。ついでにするり、と嫌な手つきで背中を撫で下ろされ、腰に手が回る。

「あーっ! そ、それより、ほら、あれっ、マダラさま、私お礼がしたいので!」
「…ほう?」
「そうですねえ…あっ、肩もみ、なんてどうでしょう?」

我ながら苦しすぎる。無茶だろう、と思っていたけどマダラさまは「ならばやってもらおうか」とのってきた。

(あれ…もしかして…。これって…チャンス?)

イスに腰掛けたマダラさまの背後に立って、その肩に手を乗せようとしたところで、ピーンと閃いた。
そうだ。この間の、あの“耳かき事件”のときとおんなじだ。いやあれは、決して故意ではなかったけども。とにかくここは、お返しするフリをして、一発ぎゃふーんと…!

「それでは…失礼しまーっす!」

“ああっと力を入れすぎたー!”頭で思い描いていた台詞とは裏腹に、実際、己の口から漏れたのは。

「〜ッ、ぎやああ…っ!!」

なんとも醜い、無様な声だった。メリメリ、だかミシミシ、って音が聞こえそうだったんだよな、自分の手から。

「うっ…くっ…、す、すり抜けェ…っ!」
「フン。このうちはマダラに同じ手は二度通用しない」

孫の手を持ったままふんぞり返ったマダラさまという絵はいかにも面白かったけれどそれどころではない。あまりの痛みに私はしばらくのたうち回ることとなった。そして確かに、痛みのあまりいつの間にか背中のかゆみは消し飛んでいた。


「有り難く思え」
「はい……」


END

(2016/11/11)

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『奥の奥まで』設定/背中がかゆくて孫の手でしばかれる


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