※設定上トビ(オビト)が普通に他の女と寝たりしています。



「名無子……」
「はい?」
「お前も、演技、しているのか?」

夜、二人で布団に入って、さあこれからというタイミングでヤツは出し抜けに言った。

「女というのは、みな閨では演技しているものだと聞いた」
「……はい?」

なんだろう藪から棒に、と顔を顰めるが、仮面を置いた彼は至極真面目そうな表情だった。

「先日」
「うん?」
「ある女から言われたのだ」
「……」
「“あなたのやり方は勝手すぎる”と」
「……、――」

――曰く。“そっち系のお店”で買った女の人に、なにやら行為の作法についてダメ出しされまくったらしい。そんなんじゃ女は気持ちよくなれないとか。強引にやればいいってもんじゃないとか。

「……ハア……」

なんでわざわざ今その話するかな、と愚痴りたいのは山々だっただが、とりあえずため息で済ませて耳を傾けた私は偉いと思う。

「オレとて男だからな。そこまで言われては沽券に関わるというものだ」
「……で」
「もちろん反論した」
「……」

嫌な予感、というのは往々にして当たるものだな。己の顔面がサアっと青ざめるのを感じていた。

「余計なお世話だ、普段別の女のことなら散々よがらせてやっている、とな」

淡々とした風で語るそのイケメン面をこれほど憎く思った日があっただろうか。いやない。

「そうしたらあの女は、“どうせ演技だ”と言うわけだ」
「……それで、気になったってこと?」
「ああ」

他人にいちいち下の事情を喋るなや、と詰りたいところだが、ここはぐっと堪える。

「ふぅん、じゃあさ? どっちだと思う? 演技してると思う?」
「いや」
「めっちゃ即答!」

その自信っぷり見習いたいな! というくらいの早さだった。

「演技、という点でお前がオレを騙しおおせるほどなら、オレはとっくにお前をそういう道に使っているさ」
「はあ……」
「だからオレも反論したのだ、そしたらなんと言ったと思う?」
「ええ、っと……?」

そんなの知るか、と心の中でぼやきつつ、少し考えるフリをしておく。どうせコイツは私のまともな回答など端から期待しちゃいないのだ。

「“さもなければ、よほどオレに惚れ込んでいる”だとよ」
「…………」

そこではじめて、したり、といった顔でこちらを見たあの憎々しさったら!

「うん? どうなんだ? “女というのは、心で濡れるもの”らしいが?」
「……、」

冷静に考えてみれば、それはそれで「己の技量がないこと」を認めてしまうことになる、気がするけど。そのときの私には、そんなことに気づく余裕もなく。

「まあ……どっちにしても、わざわざ、抱かれないんじゃない?」
「?」
「我慢してまでわざわざ、ずっと一緒にいるほど、利口じゃないもの、私」

パア、とほんの少しだけ、本当にわかるかどうかというくらいの差だけれど、彼の表情がわずかに明るくなった気がして。そんな微かな変化を読み取れて誇らしかったり、嬉しかったりする自分がいて、ああ、私ってつくづく甘いな、と思わず笑みが零れた。


END

2019/06/08

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