「センパイセンパイっ!」
「どわっ」
勢いよく背中に飛びついてきた後輩、トビ。
黒ずくめにぐるぐるの仮面男、当初はとんでもない奴が後輩になってしまった…とビクビクしていたものだけど、今やこのテンションにもすっかり慣れた。どころか最近は、はじめてできた暁での後輩に、満更でもない自分に気付いてしまった。
どう足掻いても組織最下部のポジションに落ち着いてしまっていた私にとって、こんなヤツでも先輩として当てにされ、頼られるというのは、中々どうして悪い気はしなかったのだ。先輩風を吹かせるという心地よさも、私はトビのおかげではじめて知ったのだ。
だから無意識に、トビを甘やかし過ぎたかもしれない、薄々そんな自覚はあった。他のメンバーにも「もしやそういう関係か」と冷やかされたことも一度や二度ではない。
「ねえセンパイ、実はボク今度誕生日なんスよ」
「えっそうなんだ」
このときだって、それからなんて言われるかとっくに分かっていたのに、断ることなんてできなかった。
「だからお祝いしてほしいなぁ〜って」
トビくんが自己申告してきた誕生日、当日。私ってなんというか、馬鹿だ…と、ひとり頭を抱えていた。
あの後真っ先になにかプレゼントでも、と考えたけれど結局なにをあげればいいのか見当もつかず、じゃあとりあえず定番のケーキを用意しよう、そう思いついたまではまだよかった。そこから一度決めたらとことん突っ走ってしまう凝り性の私は、どんどんひとり盛り上がって、わざわざ無駄に豪華なお手製のケーキを完成させてしまったのだ。
冷静になって今、たかだが後輩の誕生日祝いにこんなに気合い入れてどうするんだろう…そう恥ずかしくなってきてしまったわけで。
「セーンパイ!こんなとこで何してるんスか?」
「わわっ」
溜息をつきながらさてどうするかと悩んでいたところに、ジャストタイミングでトビが姿を現す。
「…あ、それってまさか…」
私の目の前に鎮座していたそれをトビが見逃すはずもなく。もう隠し切れない、覚悟を決めた。
「あの…トビ…誕生日おめでとう…」
彼の前にすす、とケーキを差し出す。恥ずかしさを誤魔化すようにすぐ隣に準備してあった小さなロウソクを手に取った。
「あ、ほら、よかったら、二人でお祝いしないかなって」
トビが何も言わないのでいよいよ気まずくなってきて、ぷすぷすとロウソクをケーキに立てていく。ついに用意していた10本分全部立て終わってしまい、もしかしてトビは気分を害したのだろうか、そう不安になって顔をあげると、突如思い切り体を抱き締められた。
「センパイっ!」
何事かと目を白黒させている私に、「めっちゃ嬉しいっス!」とトビが声を弾ませる。喜んでもらえたんだ、そう分かって自然と顔が綻んだ。それからロウソクに火をつけるまで、トビがケーキのことを褒めそやすものだから、顔が赤くなって仕方がなかった。
「あっ、でもいっこだけ惜しかったなー」
「?」
10本全てに火をつけたところで、トビが仮面の端に手をかけながら言う。
「ロウソクあと20本くらい足りてないっス、センパイ」
フッ!
ぼぼぼ、と一気に全ての火を吹き消したトビの口元がとても綺麗に笑うのを、呆気にとられて見ていた。
「――トビって何歳!?」
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可愛い後輩は、おっさんでした。
トビのあのキャラで三十路とかほんと笑うから勘弁だよね。
2015/02/10