突然アジトに響き渡った爆発音、どうせ原因はいつもの爆弾魔だと分かっていたけれど、小心者の私は驚いてつい自室から飛び出してしまった。結局その後何事もなかったので、やれやれ…と首を振りながら部屋へ引き返すと、

ガチャリ

「あっセンパーイおかえりなさいっ!」

バタン

思わず扉を閉めてしまった、ここは私の部屋で間違いないはずなんだけど…?

「ちょっとー人の顔見るなりそれはないっしょ!」

せっかく帰りを待ってたのにィ〜!と喚くオレンジ仮面の男、トビ。
廊下で騒ぐのも憚られるので、仕方なく二人で私の部屋に入ると、ん、とトビが手を差し出してくる。

「なに?」

首を傾げていると、ずいっとその手を突き出しながら、トビはのたまった。

「チョコ」

「は?」

チョコ、チョコってあれか、あの茶色いお菓子のことでいいのか。

「ちょっとートボケないでくださいよぉ〜!バレンタインっスよ、バレンタイン!」

「アンタ馬鹿か、バレンタインなんてもう三日前でしょ」

「そうっスよ!だからボクここ数日、今か今かとセンパイのこと待ってたのにッ!」

「いくら待たれてもアンタにあげるチョコなんて一欠片もないわ」

そう切り捨てると、トビはすんすんと仮面の目のあたりを指で擦って、泣き真似をするので心底うざい。

「まっそんなこと承知でしたけどね!だからもう勝手にもらっちゃいましたよ、チョコ!」

は、と一瞬頭を巡らせて、私はまさか、と思いすぐ近くにあった机の上に目をやる。
さっき部屋を出る直前、ちょうど私が開けようとしていた小さな箱が既に開封されているのが目に入り、思わず叫んだ。

「はっ!?トビちょっとこれ!?」

ばっと机に飛び付き箱の中身を確認すると、何もない。空、空っぽだ。

「信じられない……」

脱力して机に手をつく。

「そのチョコめっちゃ美味しかったっス!もしかしてすごくお高かったり?」

そうだ、そうだよトビくん。このチョコは私がずっとずーっと前から予約していてやっと手に入った、所謂自分へのご褒美系チョコレートというやつで。大事に大事にとっておいて、今日やっと食べてみようと決心がついた、高級チョコレートなのだよ。

「トビィッ!!チョコっチョコ返せええッ!!」

「ぐうえっ」

無理っスよそんなの、そう言われなくたって分かってる。一度食べたものを返すなんて無理だ、そりゃそうだ。でも怒りが収まらない、だってあのチョコを一つ残らず食べちゃったなんて、ひどいよ。

「じゃあ一千倍にして返して、ホワイトデーと言わず今すぐ返して」

「はいは…ってえぇっ!?そこは普通三倍とかそれくらいでしょ!?」

「いいからバカ!トビのアホ!このっチョコ返しなさいよっ!」

トビの首根っこを掴んで力任せに揺さぶっていたが、いい加減腕が疲れてきて、手を離す。怒りたいのか、悲しいのか、自分でもよく分からなくなってきて、目頭が熱くなった。

「センパイ……」

俯いた私の首の後ろに今度はトビの方が腕を回してきて、そっと抱き寄せられる。抵抗する間もなく、そのままクイっと顎を持ち上げられて、視界がオレンジ一色に染まる。

正直こんなぐるぐる野郎にやられても全くときめかない一連の動作に冷ややかな視線を投げかけていると、

「そんな大金払えないんで、ボクの体で払いますねっ」

腰のあたりを撫でつけながら、語尾に星がついていそうな勢いで言うものだから、ぷちんと、何かが切れた。

「……そう……」

静かな返しに拍子抜けしたのか、トビはあれあれっ?と言いながら力を緩める。その隙に私はするっと腕の中から脱け出し、自分の部屋から出た。

ちょっと、センパイどこ行くんスか!後ろからトビの言葉が追ってくるが、もう何も聞いてやらない。


「あー角都ー!ちょっと今からすごい臨時収入入るからー!トビのハラワタ売ってくるー!」

「ちょっ待ってセンパイそれ違うっ!それはダメェーっ!」



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トビに「お体で払いますよ…」って言ってほしかっただけ。
バレンタインから三日も遅刻しているのは困っている爺婆を助けていたせいです。

2015/02/17

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