※夢主死んでます


「トビみたいな分かりやすい男って、好きよ」

「ドキーッ!ちょっと今キュンってきちゃいましたよセンパイ!」

ぬらぬらと赤い蠱惑的なくちびるが微笑っていた、或る日の昼下がり。

「でもボクが分かりやすいって心外だなァ〜」

「そう?」

くすくす、喉で笑いながら目を細める。


「だってね、わたし思うのだけど、人間だれでも仮面をかぶっていると思うの」

「はあ」

「でもそれは目に見えないのよ、“なにか隠している”と悟られさえしたくないのよ」

「……」

「なのにあなたってば、そんな仰々しいお面をつけちゃって、ふふ、“ボクは隠し事をしています”って、正面から教えてくれているようなものね」

くりくりと円い目が、まるで舐めまわすように見つめている。

「いったいなにを隠しているのかしら、その下に」

「そういうセンパイこそ、何を隠しているんです?どんな仮面をつけているんですか?」

「さあね、ヒミツよ」


恐らく互いに分かっていた。こんな駆け引きに意味などない。

それでも、ただそれを暴くだけでは華がない。胸の内を晒す振りをして、その裏で腹の中を探り合っていた。なにかあるようでなにも見つからない互いの中を、まるで愛撫するかのように。そっと手を這わせ、何度も指先を行き来させ。愛を語らうように優しく、羽毛のように柔らかく。静かに、さざ波もたてずに。

そうして繰り返し交わした果てに、いつか言いようのない高揚感が待っているのではないかと。延々と見つめ合って、そうそれはまるで、踊り明かした日のように。そう期待して止まないコイツに付き合う振りをして、オレも踊り続けていた。お前もそこまでは、漠然と気付いていたのだろう。


だがやはりな、お前は浅はかだ。
そうやって目の前にある、目に見えるものに気を取られて、目に見えないものに気付けない。

確かに、オレは目に見える仮面を被っている。
だがその下にもう一枚、お前が言う“目に見えない仮面”を被っていると、何故そこまで考えない?


「だからお前は、死んだのだ」

冷たくなった動かない体を、仮面の穴からじっと見下ろす。

浅はかなお前は、欲しがっていたオレの秘密を知ることもないまま。あの日べったりと紅を引いていた唇も、ぎらぎらと貪欲に光っていた眼も、時を止めた。

コイツは暁に送り込まれた諜報員だった。
だが散々掴ませてやった情報を抱え逃亡しようかという寸前、こちらが手を下すより先に、コイツは死んだ。

「愚かだな」

でなければ、自死などという道を選びはしなかっただろう。


踊りは終わった。しかし、夜はいつまでも明けない。
オレの仮面も幾重にもへばりついたまま。相手も居ない闇の中で、誰の喝采を浴びるでもなく、曲だけが鳴り止まない。



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「仮面舞踏会」でなにか書いてみたかっただけなのだ…。

2015/02/21

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