男女が密かに語らうには、望月の夜は明るすぎる。
見えてはほしくないものまで、くっきりと照らし出されてしまう。

けれどもかと言って、灯りの一つもない暗い朔の夜は、互いの顔を確かめることもままならない。今の私たちのように。

「………」

「………」

まあ私たちは、顔が見えようが見えまいが、交わす言葉もない静寂の中、微睡むでもなくただただ横たわっているだけなのだけど。

それをいいことに、じっと横にいる彼の顔のあたりを見つめてみる。目を凝らしてみると、仰向けになっている彼は、無表情で天井を見上げていた。私たちの視線は交わらない。

この“仮面の下の彼”が出てくると、途端に無口になるものだから、少し調子を狂わされる。ついでに、私が恋したおちゃらけ男のトビは、この男のただの演技だったのだな、としみじみ思って、だいぶ複雑な気持ちにさせられる。私としては、もう一人いたマダラさんだかの方が、会話が続く分対応は楽だった気がするくらい。

そう言いながらなんでこの男とこんなことになっているのかって、そんな野暮なことは訊かないでほしい。

ひたすら天井を見つめている彼の瞳が、暗闇の中でも爛々と輝いている。
私はそっと寝返りを打って、彼に背中を向けた。


最初は、喧しくて、鬱陶しいヤツだと思っていた。
ソイツが任務中にちょっとかっこいいところを見せてきて、絶体絶命の窮地から救われたくらいで、コロっといっちゃうくらいには、過去の私は単純だった。そんな私がそこからこの男に転げ落ちるのなんて、それこそ簡単だった。


それでも初めて二人で過ごした夜は、とてもとても長く感じられたのを覚えている。
この静かな人と過ごすには、夜は長すぎるのだ。これがもし“以前の彼”だったなら、きっと騒々しくて、夜が短く感じるだろうとさえ思っていた。

それなのに今は逆だ。この夜は短い。このちっぽけな夜は、あまりにも短い。

あの頃の拙く青い恋心を謳うには、今となってはきっとこの夜は長すぎる。
そしてもう、どうしようもないところまで育ってしまった彼への愛を語るには、今この夜は、あまりにも短すぎる。


それにしても思わずにはいられない、やっぱり私たちには、満月の夜は明るすぎるのだ。
今日が新月でよかった。枕に顔を押し付けて、醜く声を押し殺している私が、彼に見られずに済むから。

「……泣いているのか…」

そんな努力を無碍にするような、消え入りそうな彼の声。

こちらを向くでも、抱き寄せるでもなく。
ただ独り言のように呟かれたそれが、掠れた声が、耳に寄り添って離れない。

あなたがそんな人でなければ、私はもう二度と、こんな夜を過ごさずに済むのに。



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見なくとも泣いていると分かる程度には気を払ってくれて声もかけてくれるけど慰めたり抱き締めたりはしてくれない(できない)そんな距離感がいいなあというお話。

2015/03/10

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