今日は4月1日。世間で言うところの、エイプリルフールである。
人並みに行事を楽しみたい私は、朝起きて早速嘘をついてやろうと、るんるん気分でアジトを歩いていた。が、なぜだかそんな日に限って誰も見つからない。
そもそも、だ。冷静になって考えてみれば、この犯罪者集団に、こんな行事が通じるのだろうか。例えばイタチにばったり会ったとして、私はどうするつもりだろう。あの顔の前で嘘をついて遊ぶだなんて、到底できそうもない気がしてきた。というか、私以外に誰かこの日を楽しもうというノリのあるヤツなんているのだろ――
「あ、センパイおはようございまーっす!」
――いたわ!!!!
「トビいいところに!会いたかった!」
これは嘘ではなく本心で。全くいいタイミングで来てくれたよトビくん。キミほど今日にうってつけな人物はそうそういないでしょ!正直トビはエイプリルどころかマーチもメイもジュライもフールな年中馬鹿だし、ついでに本人は四六時中嘘ついてそうな胡散臭い人物だから騙しても良心が痛まないし、下手な嘘ついても特に問題にならなそうなところもベストチョイス!である。
「イヤンっ!会いたかっただなんてセンパイ…て、何かボクに用でも?」
「大アリだよ!実はね――、……」
あ、今更すぎるけど肝心の嘘の内容をロクに考えていなかった。
とりあえずコイツを驚かせられるような嘘、嘘…と頭を振り絞って咄嗟に出たのは。
「実は私、暁を抜けることにしたの!」
抜けることにしたの!って、我ながら内容の割にやけに明るい声が出てしまった。
こりゃすぐバレるかな、まあ本気で騙したいわけじゃないし、とトビの反応を伺うが、目の前のオレンジの仮面はしんと押し黙っている。
「あの、トビ…?」
「ほう、そうか…お前が暁を抜ける、か…」
「!?」
今明らかにトビからトビじゃない声が発せられた気がするけど、気のせいだろうか。一瞬周りに目を走らせるが、私たち以外誰もいない。狼狽える私の方へ、トビがじりじりと歩み寄ってくる。
「オレがそれを許すと思うか?」
「――いやいやいやいや!アンタだれ!?」
「フ……オレはうちはマダラだ」
「うちはマダラ!?」
どっかで聞いた名前だ。混乱する頭の片隅でぼんやりと思い当たる。
「いやいやあのマダラとか、嘘でしょ!?」
「ああ嘘だ」
「あーなんだやっぱり嘘なん―って嘘かよ!え、じゃあなに、トビなの!?」
いつの間にか壁際に追いやられていたのにも気付かなかった。至近距離で、やっぱりトビとは違う低い声が喉で笑う。
そのままぐるぐる仮面がどんどん顔に迫ってくる、面があるわけだしなにをされるわけもないんだけど、思わず目を瞑ってしまった。
「……オレはうちは―――だ」
「…?」
肩と耳の間あたり、顔の横に気配を感じてすぐ、なにか聞こえるか聞こえないかというくらいの音が空気を揺らす。なんだろう?聞き取れず困惑しているうちに気配は離れていった。
「なんつってー!どうセンパイ?騙されちゃいました?今日はエイプリルフールですよ!」
「…っ、トビっ…!」
目を開けるとけろっとした様子のいつも通りのトビ。つい流されかけるが、待て私。どう考えてもおかしいだろ。
「なんださっきの、嘘とかいう次元じゃないけど!?」
「んん〜なんのことっスかぁ?」
「とぼけるな!おいトビこら、ちょっとその仮面の下でも見せなさいよ!」
離れていこうとするトビに向かって手を伸ばすと、逆に腕を掴まれ引き寄せられる。
「ところで、お前のさっきのは嘘か」
「は!?」
またもや突然聞こえてきた謎の声に加え、“さっきの”がなにを指すのか分からずダブルで混乱する。
「……もちろん嘘だろうな?」
「ハイ嘘です!!!」
掴まれた腕に力が込められていて痛いし、至近距離からあの仮面越しに妙な迫力で凄まれるしで、よく分からないまま即答してしまった。所詮私は弱い人間です…。
「フン、そうか……」
最後にちょっとだけ柔らかいと言えなくもない雰囲気を醸し出したトビ(仮)が去って行くのを、私はただ突っ立って見送った。一体なんだったんだ。エイプリルフールだったというのなら、明日にはこれもチャラになるのだろうか。
とてもなかったことにはできそうにない、そう思った私を裏切って、翌日もそのまた翌日も、トビはトビでしかなかった。四月の嘘が本当に暴かれるのは、また先の話。
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エイプリルフールですね!フールといえばトビ、トビといえばフール。と失礼な発想で書き始めたら結局全部のせになってました。
2015/04/01