「トビが死んだ」。
そんな報告を耳にした日も、私はふーんとしか思わなかった。
だってそのトビという人物に、私は一度も会ったことがなかったんだから。

一応組織の先輩としては、新入りだった後輩が早々に退場してしまったことに深い哀悼の意でも表すべきなのかもしれないが、どちらかと言うとデイダラが死んだという事実の方が衝撃だった。

まあ正直デイダラは仲間内でも早死しそうなタイプだなあと思ってはいたが、年下だったし、可愛げがあるし、なんとなく気に入っていたひとりだったのだ。


「だから今日は休む」

「……お前は子供か」

「うるさい、もうどっか行ってよ」

自室で布団をかぶって、枕に顔を埋めていたら、珍しくあの人がやって来た。
いつもは私の方が呼び出されて会いに行くことしかなかったから、なにか重要な用件でもあるのかもしれないが、今はそんな気分じゃない。そう思ってごねていると、ハア、と溜息を吐きながら、彼は布団の上に腰掛けた。

「………あれ、これ」

その拍子に、私の顔の横にカランと落ちた、橙色のそれが目に入る。

「なんで、マダラが持ってるの?」

右目のところにだけ穴の空いた、ぐるぐると渦を巻いている仮面。
実物を見たのははじめてだが、これは間違いなく、先日聞いたアレではないか。

「うわっ、こんな意味不明で変な仮面、本当にあったんだ!」

手にとってしげしげと眺める。

「なんかさ、この間暁に入ったトビってヤツが、こういう仮面してたんでしょ?私結局顔合わせなかったから、どんなヤツだったのって聞いてみたんだけど、すごく騒がしくて――」

「妙にハイテンションで?」

「そうそう!でもって声が――」

「こんな風に甲高くて?」

「そう!で、それでこの仮面だっていうから、そんな変人ありえないでしょ、って笑って……、……」

「へえ〜、確かにそんな変人、いるわけないっスよね〜、そんな変人」

「………あ、あのー………マ、マダラ……さん…?」

ギギギ、と錆びついたように首を動かし振り向くと、同時に、手の中の仮面をバッと奪われる。

「フフッ、はじめまして先輩!ボクがそのトビっスよ、以後よろしくお願いしまっす!」

そこには、騒がしくてハイテンションで声が甲高くてぐるぐるな仮面をつけた、変人がいた。


「……お近づきの印に、たっぷり手土産があるぞ。受け取れ」

「あっ、え、ちょっと待ってなんで印っ、ちょっとストップ話し合おうっ、いやああぁ……」


生きるべきか、死ぬべきか。
私はそう哲学したくもなるような責め苦を受けた。

と、いうのは流石に嘘だが、私が彼の仮面を笑うことは二度となかった。


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"To be, or not to be : that is the question."
ありますありませんあれはなんですか

お近づきのしるしにいんを(結んで)くれたマダラさまでした(?)
振り返ると意外とトビとして活動してた期間は短いよなーと思って思い付いたネタです。

ちなみに To be と To bi をかけている二重駄洒落でした。

2015/04/26

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