「おかえりなさーい!」

帰るなり早々、ドタドタとこちらへ駆け寄る足音。

「ご飯にする?お風呂にする?それとも「お風呂入ってくる」ちょっエエーッ!」

そこは最後まで聞いて下さいよォ!と喚くトビを無視し、しつこく纏わりついてくるのを払いのける。

「だいたいソレ、普通はこっちのセリフでしょ」

「ううっ、ちゃんとご飯も用意してたんですよ!?しかもボク、食べずに先輩のこと待ってたのに…」

「…トビ……」

露骨にうなだれてみせるトビに、ごめんね私が悪かった、トビはすごいねえらいね、なんて言うわけもなく。

「あんたいつも飯食ってないでしょうが」

「あ、バレました?」

アハハ〜なんてムカつく声で笑っていたトビが不意に立ち止まり、視線を少し上へ向けた。

「……すみません、ボク、ちょっと」

「なに、また野暮用でもできたの?……さっさと行ってきたら」

それから驚くほどあっさり去っていたトビを見送る。
こういうことにももう慣れっこだった。いつもそう。会えば騒がしくマシンガントークをかまして引っ付いてくるくせに、ふっと何も言わずに、何も言わせずに離れていく。急に訪れる別れはいつだってひどく素っ気ない。

「ふん……」

シャワーを浴びた後、言葉通りちゃんと用意してあった食事に手を付けた。スプーンでひとすくい、口に運んだ黄色いスープは、よく分からない味だった。冷め切っていた上にどうせろくに手も加えてないインスタントスープだろうから、大した味でなくて当然だ。別にこれが、一人きりで食事をしたからといって、そう感じたわけではないのだ、断じて。

「トビ……」


***


「はああ ただいまっス〜」

数日後、珍しくヨレヨレした姿でトビは帰って来た。

「おかえり」

「…!先輩……」

私の方も珍しく“おかえり”なんて声をかけてやったら、少し驚かれた。心外だ。

「ねえ、トビ。今日は、お腹になにか入れられる気分?」

「…へ…?」

「…ご飯、つくってあるから。……要らないなら、いい。あとお風呂も、沸かしてあるから」

「……先輩…それって…」

今更のように気恥ずかしさが込み上げてきて、逃げるように背を向けたのに、すかさず手を掴まれてしまった。

「もうっ!そこまできたら、ちゃんと言って下さいよ!ね?」

「う………ご、ご飯にする…?お風呂にする…?それとも……わ、わた、」

「よっし風呂入りましょう!」

「え、」

言い切るより前に即答される。先日トビに対して自分がどんな仕打ちをしてしまったのか、この瞬間になってはじめて悟った。そうか、トビもこんな気持ちになったのかな…なんて、少し俯いていたら、グイっと手を引っ張られた。

「ちょっと、トビ!?」

「ほらほら先輩、早く!」

転ばないように足を動かすのが精一杯で、気が付けば私たちは脱衣所に立っていた。

「まっ、トビっ!」

「はいはいお洋服脱ぎましょうね〜ハイバンザーイ」

「やだ、やめっ!もうっ、なんのつもりっ!?」


その後の風呂あがりのトビ氏は、「我慢できなかった。風呂に入りながら先輩を食べればいいと思った」などと意味不明な供述をしており…。

「大丈夫か」

「大丈夫じゃない…」

すっかりのぼせ上がってしまった私をトビがパタパタと団扇で扇いでいる。一方、せっかく気合を入れて用意したご飯の方は、すっかり冷め切っていた。


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トビに「ご飯にする?〜」の台詞を言って欲しかっただけ。なんか最近トビとイチャつきたい熱がすごい(けど書けない)。
どうでもいいけど今の季節だとそうそうご飯は冷めない気がする。まあ気にしない。

2015/05/09

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