早いもので、今年ももう六月。既に一年の折り返しまで来てしまったのかと思うと、時の流れの早さに驚かされるばかりだ。
「お邪魔しまーす」
主のいないこの部屋へそろそろと入るのにも大分慣れてきた。考えてみれば、私たちのお付き合いももう半年になるわけで、お互いの部屋を行き来するのも、いつの間にか日常の一部になっていた。
「よっと」
少しばかり散らかった部屋の奥へ進み、どんよりとした空気を入れ換えようと、窓へ手を伸ばす。
「……ええっ!」
ふと窓から外を見れば、ベランダには洗濯物が干しっぱなしになっていた。
確かに、春が過ぎたかと思えば一気に蒸し暑くなってきて、この間までは洗濯もよく乾きそうなカラっとした天気が続いていた。それも六月に入ってから急に雲行きが怪しくなり、ここ数日は晴れていても突然雨がぱらつくなんてこともザラだった。
実際今日だって、午前中は晴れ間も見えて暑かったけど、それ以降は曇り時々雨。こんな夕方まで干しっぱなしにしていたのなら、もう大分湿気ってしまったのではないだろうか。
「もう…っ!」
ガラガラ、と窓を開けベランダへ出る。案の定しめっとした感触のそれらを急いで手に取り、部屋の中へ取り込もうとした、そのときだった。
「ふんわっ」
少し強めの肌寒い風がぶわっと吹き抜けて、腕の中のシャツが舞い上がる。それが私の顔面へまっしぐら、視界を覆うように直撃したものだから、部屋へ入ろうと踏み出しかけていた足元がふらついて、私は勢いよく前へ転んでしまった。
「ったぁ……」
幸い、抱えていた洗濯物がクッションになってくれたため、大事にはならなかった。……のだが。
「……おい」
「…あ、オビト、おかえり」
いつ帰ったのか、洗濯物の山から顔をあげると、そこにはオビトが立っていた。オビトは私の周りをぐるりと見回すと、ぐしゃぐしゃにぶちまけられたシャツやらタオルやらを見て、溜息を吐く。
「なんだこれは……オレの部屋を勝手に荒らさないでもらえるか」
「ええっ?ちょっと、なによそれ」
呆れたような物言いに膨れていると、オビトは少しだけ口角を上げた。
「いや、分かっている。悪かった。それより、大丈夫か?」
大丈夫だよ、とだけぶっきらぼうに答えて、後ろ手に窓を閉めながら、散らかしてしまった洗濯物を片付けようと手に取った。
「…………」
よく見もせず手探りで掴んだそれに目を向けてから、思わず一瞬固まる。
私に倣ってタオルをたたもうとしていたオビトがこちらを見たので、取り繕おうにも気まずさが増した。
「…なんだ、オレの下着、盗るなよ」
「っ、ばかっ!とらないっ!」
いくら私がオビト大好きとはいえ、あんまりじゃなかろうか。
パシッ、とそれを床に叩き付けてやると、オビトはさも愉快そうに笑う。
「ふ、そんなんじゃ、先が思いやられるな」
「…?」
「どうせ将来――」
「っクション!……ぁ、ごめ、」
先程の風が身に沁みたのか、我慢できずクシャミが出てしまった。オビトが何か言おうとしていたのを遮ってしまったので、続きを促すが、なぜかバツが悪そうに、「いや、なんでもない」とだけ言われた。
「今日は温かいものでも作ってやるよ」
「あっ、いいね!私ハヤシライスがいい!」
「……すまん、今日はもう夏野菜カレーの材料買ってきた」
「ええー……オビトこの間もカレーだったじゃん……」
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ジューンブライドで何か書こうと思ってこうなった。六月の第一日曜日はプロポーズの日らしいですね。
ちなみにこの話は若干『December Moon』を意識して書きました。
2015/06/03