何でも先日デイダラが勝手に新しい部下を引き入れたらしい。
まあ、オレには関係のないことだ。計画に差し障りの無い限りはな。任務が円滑に遂行されるのであれば、それに越したことはない。
「な?やっぱ言った通りだったろ、うん」
「ほんとですね!流石デイダラさん素晴らしいです!特にこの……」
度々二人が話し込んでいるのを見かけるようになり、近頃この女が例の新人なのだと気が付いた。特筆すべき部分もない、何の印象にも残らない女――それにしても、このデイダラとの熱心な話ぶりには多少驚かされるが。あんなただの鳥やら動物やらを型どった妙な造形物如きでこれほど盛り上がれるとは、全く理解できん。
ともかくだ。オレはデイダラに言い渡さねばならない用件がある。
「どうもーデイダラ先輩っ!お二人だけで楽しそうにズルイですよ〜っボクも混ぜてくーださいっ!」
粘土の塊を挟んで、ここの曲線がどうの、フォルムがどうのと熱弁している間に割って入る。
「ああっ?」
デイダラは露骨に不機嫌そうな表情を浮かべた。
「イヤンっ!そんな怖い顔しないでくださいよー!」
ねっ!と隣にいた女に顔を向けると、
「っ!」
声にもならない声をあげ、そのまま固まった。
「トビテメェ何の用だ?うん」
「ああ、それがですね……」
それ以来、妙な視線を感じることが多くなった。
「あの…どうかしました?」
「あっ、いえっ!なんでも、ないですっ!」
元を辿ればいつもあの女がいた。声をかけてやると、微かに目を見開き頬を染めて、そそくさと去って行く。
「…………」
何か疑念を抱かれている、という線はないだろう。だとすれば。面倒事の芽は、早めに摘んでおくことだ。
「ねえ、君いっつもボクのこと見てるよね?」
「えっ、そんな……」
「あんだけジロジロ見られてりゃ嫌でも気付きますよ……何か言いたいことでも?」
促してやると、やっと決心がついたのか、逸らしていた顔を上げた。
「あのっ、私っ!はじめて見たときから……ずっと……」
「………」
「ご迷惑はかけません……だからその…一度だけでいいですから……ちょっとだけ、触れさせて、もらえませんか?」
熱を帯び潤んだ瞳がうっとりとこちらを見上げている。口を開こうとした刹那、まだ言葉が続いた。
「お願いです…あなたの、その、仮面!少しでいいですから触らせてください!」
「………は、」
「そのシンプルかつ大胆なデザイン!深みのある色…一体なんの染料を使っているのでしょう?それに曲線一つひとつの絶妙な具合、丁寧な彫り…陰影の織り成すミステリアスな情感…!そして何と言っても片側だけに空けられた簡素な穴から醸し出されるある種の侘びしさ、それと相反する無限の広がりを包容した渦がどこか無機質な中にも躍動するような息吹を与えアンビバレントな刺激を添えて――」
「……、」
「あっどうしたんですっ?待ってください!トビさん!」
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トビは犠牲になったのだ……女の思わせぶりな態度……その犠牲にな……。
2015/06/16