7月6日の夜。珍しくアジトの自室にまで戻ったトビを出迎えたのは、我が物顔で部屋を占領している部下と、天井にまで届こうかというにょっきり伸びた笹飾りだった。
「なんなんですかこれは……」
「あっ、トビ!ごめんねちょうどいいスペースがなくって!ちょっと部屋借りてた!」
「は、はあ……」
見ればそこらじゅうに折り紙の残骸が散らばっており、葉の先には色とりどりの飾りがとりつけられている。
「よしっ、これでオッケー!」
「……それは?」
「短冊!願い事書いたの!」
何やら文字の並んだ桃色の紙切れが、輪っかの隣にくくりつけられた。
「あれ、二枚あるんスか?」
「うん。私の分と、トビの分!トビの分も書いておいたよ!」
そう言いながら、桃色の短冊より高い位置へぐっと伸びた手が、青い短冊を飾り付ける。
「これで、よしっ! ふ〜、さてっ、と、私ちょっとリーダーに呼ばれてるから、行ってこなきゃ!」
「ええっ!?ちょっと、このゴミ片付けてから…!――って、行っちゃったし…ハァ……」
取り残されたトビはため息をつきながら、室内を賑わせる飾りを見上げる。
「…………」
ふと、ひらりと翻った桃色の短冊を手に取って、そこに書かれた文字を読んでみた。
“トビとずっと一緒にいられますように”
「フッ……」
そのまま上の方の青い短冊に目をやると、そちらはなにやら細かな文字がビッシリと敷き詰められている。トビは少しぎょっとしながら、その“自分の分”と言われた方に手をかけた。
“リンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリンリン……”
ビリッ バリッ グシャッ
揺れる笹の葉の先には、桃色の短冊だけが残された。
――それから。アジトの外へ放り出しておいた七夕飾りに、いつの間にか捨てたはずの青い短冊が復活していて、トビがまたそれを無言で破り捨てたのは、翌日の朝のこと。
「ひどいっ!またなくなってる!」
健気にもその青い短冊は何度も何度も復活し、堪忍袋の緒が切れたトビが「もうこんなイタチごっこはウンザリだ」と飾りごと川に流してしまうまで、激しい攻防は一日中続いた。
「ああっ、トビの大事なお祈りが…っ!」
「いい加減にしろ、お前も川に流すぞ」
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夢主は純粋な厚意でやっているのにトビときたら大人げない…。というかオビトですかね。
一応豪火球で消し炭にしなかったのは彼の良心だと思います。
2015/07/06