「か、か……、」
「…か?」
「かっゆ〜〜い!!」

んもおおお!なんでこんなに痒いのおお!
でも引っ掻きすぎると跡になっちゃうし血も出ちゃうし、あ〜〜でも痒いの治まらないのおぉ!!

「そんなにボコボコ蚊に食われるとは、お前よほどうまいのか?」
「そんなのっ、知りませんよっ、もう!」

そう、考えてみたらそもそもの原因はこのマダラさまなのだ。
わざわざ落ち合うのにこんな片田舎の河原近くのアジトを指定して。その上朝方の待ち合わせの時刻をぬけぬけとすっぽかして、何食わぬ顔して(いや本当は顔なんて見えてないんだけど)夕暮れ時に彼がやって来た頃には、私はもう四方八方から忍び寄る魔の手によってズタボロにされていたというわけなのだ。


しかも待っている間どーしても我慢できなくなって、太ももまで裾を思い切り捲り上げて引っ掻いていたら、運悪く、というかまるで図ったかのようなタイミングでマダラさまはやって来て、私を見るなり、頭を振ってこう言った。

「…どこへ寄ってきたのか知らんがな、あまり盛るなよ、みっともない」
「何の話!?」

「こうも暑いと気持ちは分かるが」と意味不明なことを口走っていたマダラさまは、どうやら私の脚についた無数の赤い跡を何か“別の跡”と勘違いなさったらしい。全く迷惑な話だ。


「そもそも、な、名無子、お前こうも虫に刺されるなんぞ修行が足りんのだ」
「は、あ?修行どうこうの話ですかこれ?」

だって蚊だよ?アイツらいくら防ごうとしてもいつの間にかどっからか侵入してきて、気づかぬうちにチクっとやっていくんだから。

「じゃあそういうマダラさまはどうなんですか?」
「フン」

――刹那、マダラさまの仮面の奥が赤く光った、ような気がした。

「うちはの瞳力を舐めるなよ小娘」

パンッ!

「ッ、なに!?」

急に目の前で大きな音がして、見ればマダラさまが目にも留まらぬ速さで手を叩いたところだった。

「……どうだ?」
「……、ええ……」

合わさった左の手のひらと右の手のひらをマダラさまが勿体ぶって離したとき、かなり嫌な予感はしていたんだけど、実際現れたのはとっても嫌な光景だった。

「きたない……」

黒い手袋の上で、ぷちっと潰れた無残なヤツ。そして小さな小さな赤い血の跡。
マダラさまはなんだか妙に誇らしげにしていたけれど、突っ込む気力も湧いてこなかった。


――その後、修行不足の私にはとてもそんな芸当無理だからということで、ちょっと遠出して薬を買ってきた。やっぱりちゃんとお薬塗ってそっとしておくのが一番だよね。ついでに今晩は誠に遺憾ながらこのアジトで一泊することとなったため、効果があるんだかないんだか怪しげな虫よけグッズを色々と買い漁ってきた。

「そんなもの本当に効くのか?」

と、いかにも私を小馬鹿にしたように嘲笑っていたマダラさまが、突如私の部屋に飛び込んできたのは、夜も更けた頃だった。

「…ん、なに…?」

ガサガサと物音がして目を覚ましたら、なんと私の荷物をマダラさまが勝手に漁っていたのだ。

「え、え!?」

何事かと飛び起きると、マダラさまは急にサンダルを脱ぎ捨てて、あろうことか私が先刻買ってきたかゆみ止めの薬を足に塗りつけ始めた。

「…え、もしかしてそれ、マダラさま…」

「ク……ククク、このオレを出し抜くとはなァ、大した奴らだよ」

いやいや…。かっこつけて言ってるけど、思いっきり蚊に刺されてるから。必死で薬を塗りつけるマダラさまは滑稽以外の何ものでもなかった。というか、当たり前なんだけど、こんな人でも蚊に刺されたり痒くなったりするもんなんだなあ。
しかも面白いことに、マダラさまって足んとこ以外は全然肌が出ていないから、おんなじ足周りばっかりたくさん刺されてて真っ赤になっていた。


「ぷ……、くく、ふふふ」
「ああ、仕方がない……今日はお前と共に寝ることにしよう」
「え」
「お前には弾除けになってもらう」
「……そんなぁ」



END

2017/08/10

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