今日はカップルどもがこぞって活性化しだす聖なる夜、前夜。とはいっても、我らが犯罪者集団“暁”に、そのような浮ついた空気は不要……と考えていた私だが、前々からある嫌な予感が頭を離れず、そのためしばらく前から念入りにアジトの私室を飾り立てていた。その効果あってか、24日の晩まで何事も無く過ごせた――のだが、事は日付が変わろうかという深夜に起こった。

「ジャジャーン!先輩っメリークリスマース!!」

音もなく突如窓辺に舞い降り、静寂を破って喧しい声をあげたのは、全身黒ずくめに橙の仮面、極めつけに白いポンポン付きの真っ赤な帽子という、悪夢みたいな格好の後輩だった。

「煙突なんてないんで、窓から来ちゃいました!エヘっ!スンマセン!」とか言いながら、ヤツはズカズカと人の部屋へ入り込んでくる。

「もう先輩ってば!こんなにクリスマスの飾りつけちゃって!ノリノリじゃないですか!」

「(…絶対来るとは思ってたけど、なんか予想より色々と酷いな…)」

「さあ先輩!アナタのサンタがやって来ましたよ!」

などと意味不明な言葉を発するトビに向かって、私は寝台の横に置いてあった“飾り”を手に取り、かざすようにして何度か左右に振ってみた。

「…?」

「………、」

「……あのー、先輩?何やってんスか、それ?」

「……、フー。やっぱダメか。ちぇっ、全然効いてないな」

「えーっと…?」

ポイっと手から飾りを投げ捨てて、もう一度ベッドに横になる。

「ヒイラギってさ」

「はい?」

「魔除けの効果があるらしくて」

「……はあ」

「だからたくさん飾っておいたんだけど…全く邪気、祓えてないね」

ベッドへ覆いかぶさるように迫ってきたトビの仮面に、今度は直接ポンポン、とヒイラギの飾りを当ててやると、ヤツは大げさに仰け反ってみせた。

「ぐっはァ!ちょっと今ボク、もしかして、実はヒドイこと言われてません!?」

「はいはいはい。で、一体何の用?なんか手土産があるなら、それだけ置いてさっさと帰って」

「そうもいかないでしょう先輩!?今日は一体何の日だと思ってるんです!?」

興奮気味に両手をワキワキとさせているこの後輩に、むしろ問うてやりたい。お前こそクリスマスを一体何の日だと思っているんだ、と。

にしてもさっき「暁にクリスマスの浮ついた空気なぞ不要」なーんて言ってはみたけれど、考えてみたら今頃、リーダーあたりは小南なんかとイイ感じの一時を過ごしているのかもしれない。想像してみたらなんだかあの二人は絵になっていて、嫉妬とかではなく純粋に羨ましい。

で、かたや私ときたらこれだ。なぜホーリーナイトにこんな怪しげな仮面男、しかも珍妙なサンタ風の輩に絡まれなくてはならないのか。むなしいというか、無性に悲しくなってくる。

「さあさあ先輩!遠慮せずボクと熱〜い聖夜を過ごしましょっ?」

「…そうね」

思いっきり両腕を広げ布団へとダイブしてくるトビに、熱〜い火遁をお見舞いしておいた。

「ギャアアっ!!熱ッ!」

頭のポンポンがよく燃えていて、これが案外綺麗だった。ほら、あれ、イルミネーション?クリスマスキャンドル?まあそんな感じで。

ついでに部屋中走り回ったトビのせいでいつの間にかあたりの飾りにまで引火して、それはそれはもう、本当に、忘れられない熱〜い一夜になった。



「ねえトビ?こんなになっちゃった責任、とってくれるよね?」

「は、はひ……ぐえぇ」


END

2015/12/24

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