「……、いたい」
ムスッとした顔で、慣れない手つきで食事を口に運んでいたら、通りがかった事の元凶が呑気に近寄ってきた。
「あれっ、先輩、何してんスかそれ?」
ぷぷ、と口元に手を当てて笑われ、幼児のごとくグーで握り締めていたスプーンにミシッと力が篭もる。
「あのねえ…?トビくん?いったい誰のせいだと思っているの?」
「えっ?」
えっ、じゃないよ本当。洒落にならないんだから。コイツのせいで私は今、利き腕の自由を奪われ、こんな不便な目に遭っているのだから。ジトーっと恨み辛みを込めて睨みつけてやれば、流石のコイツも察したらしかった。
「あー……その件はホント、すみませんでした」
先日の任務中のことだった。
私はデイダラとトビのペアの補佐に回っていたのだけど、標的と戦闘になった際、この後輩のテキトーな爆薬設置のせいで、私は危うく爆発に巻き込まれるところだったのだ。なんとか直撃は避けたものの、爆風に思いっきり煽られ吹っ飛ばされた私は、利き腕に怪我を負ってしまった。
「おかげで毎日、不便で仕方がないよ…」
私だって忍の端くれだ。利き腕が満足に動かせないからといって、大きく支障が出るようなヤワな鍛え方はしていない。けれど、それにしたって日常生活の節々でどうしても不便が生じてしまうし、そのせいで小さなイライラも募っていく。
「わかりました!じゃあボクが責任をとって……はい、あーん」
「……はあ?」
それもコイツのへらへらした態度のせいだ…なんて私の不満をよそに、トビは突然スプーンを奪ったかと思うと、リゾットののったそれをずいっと私の前に差し出してきた。
「ほら先輩、あーん?」
「……ねえ、おちょくってんの?」
「そんな!ボクは大真面目ですよ!?」
なんでもトビ曰く、私をこんなにしてしまった責任をとって、トビ自ら介助してくれるらしい。
「……いらない」
「ええっ?」
「トビの介護とか、不安しかないし……」
想像するだけで体力を削られそう、なんて溜息を吐いたら、トビは心外だと大げさに声を上げた。
「任せて下さいよ!上から下まで、もうガッチリお世話しちゃいますから!」
もうほんと、なに考えてるんだろうコイツ。やっぱり不安しかない。
「いいって本当…勘弁して…」
「まあまあ、遠慮しないで。とりあえずっ、ご飯食べて…アッ、」
「え……」
ベチャ、と湿った音がして、スプーンから溢れたリゾットが胸元を汚す。
「ああーっと!これは!スミマセンっ、今すぐ拭きますね!!」
水を得た魚のごとく生き生きとしだすトビに、させるかよ、とばかりに私もすぐさま動き自分で胸元を拭う。
一歩遅かったトビは明らかに悔しそうな素振りを見せるが、また次なる厄介事を閃いたらしい。
「あっ、先輩、服にシミがついちゃいますし、早く着替えた方がイイっすよ!」
…ああ、そうきたか。あまりに見え見えなトビくんの意図に辟易してくる。
「…いいってば」
「もーう先輩ってば、恥ずかしがっちゃって!ボクらの仲じゃないですか!」
いったいどんな仲なのか教えてほし…、いや、やっぱり教えてくれなくていいや。
「いやー、完治するまで結構かかりそうだしなァ、ここはボクが責任持って、最後までご奉仕させていただきますッ!」
やっぱりコイツ最初っから介護とかする気ないよね。介護っていうかあれだよね、うん。
「さあさあ!まずは脱衣所に行きましょう!!」
なんでもいいからさっさと身体を治そう。でなければ身体より先に精神が疲弊しきってしまう。そう固く決意した瞬間だった。
END
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先日メモに書いた「オビトに介護されるネタ」がいつの間にかトビくんになっていたのだ…。ついでに短編にするつもりが話が続かなかったのでSSにしといたのだ…。
2016/03/08