うちの一族は代々忍相手に防具やら各種装備品やらを商いしてきた。とはいってもこのご時世、その道一本で同業者と競うのはなかなか難しく、いつしかあっちこっちに手を広げるようになった。その一環として着物や戦装束の仕立てなんかも請け負ってきたのだけど、方々の忍たちを相手取るだけあって、中には大変個性的なお客様や、困ったちゃんなお客様も現れた。

「頼もうか」

数年前、そんな挨拶とともに暖簾の向こうから現れた彼も、間違いなくその中の一人と言えよう。

「いらっしゃいませ――、」

私は思わず言葉を失った。なぜなら彼は、それはもう妙ちきりんな仮面を着けていたからだ。

しかし、彼――トビさんとすっかり顔馴染み(ではなく実際は面馴染みなのだが)となった今では、あの程度で動揺していた自分が未熟だったと思う。だって彼は、この店に来るたび来るたび、個性的なお面を取っ替え引っ替え引っさげてきたのだ。

トビさんは毎回、自ら考案したらしき服の図案を持ってきて、この通りに作れと宣った。最初はそれこそ、あの仮面のせいでどれだけ妙な……、個性的な服をご所望なのだろうと身構えたものだけど、案外、服のデザイン自体は普通だった。というか、せっかくスタイルが良いのだし、あの変な仮面さえなければ、結構な美丈夫に見えたかもしれない――なんて、別にトビさんに気があるわけではないのだけど。

ともかく彼はうちの商品がそれなりに気に入ってくれたらしく、いつの間にか常連客に仲間入りしていた。
それにしても一時期頻繁にやって来ては、毎回同じものを何度も頼んでいたから、ちょっと顔をしかめたこともあった。

「この間のはどうですか?」とそれとなく探りを入れたら、「駄目になった」とにべもなく告げられて、「勿体無いから少しくらいお直ししますよ」と軽い気持ちで言ったところ、次に来た彼は、見るも無残な、見事に引き千切れた布切れを持ってきた。

そりゃあ忍なんだからね、ハデに忍術でやりあってこんなことなっちゃう日もあるんでしょうけど、それにしても彼はピンピンしていたし、見たところ怪我のひとつも無さそうだったから、嫌味のひとつでも口にしたくなるってものよ。

「さぞかし危険な目に遭われたのでしょうね」
「まあな」

精一杯込めた棘も彼は何処吹く風、その上「それはオレが自分で破いたものだ」なんて言い出すから、なんだか私は目眩がした。


それからある日、しばらくぶりにやって来た彼が、一際気合を入れて頼みたいと言って、とある図案を出してきた。

「これは……まさか、トビさん、あなた」
「……」
「もしかして、あなたも……あの、うちは一族の――」

そう。背面に描かれた団扇の模様は、私も知っていた、あの有名な。

「うちは一族のファンだったんですね!?」

確かにね。木ノ葉のうちは一族といえば、昔はイケメンの精強揃いで名を轟かせたって聞いている。いろいろあって今はほとんど生き残りがいないらしいけど、それがまたミステリアスっていうか。肖りたい気持ちもわかるわ。憧れるよね。なんて思っていたら、トビさんは「お前には心底失望したぞ」だって。なによそれ、失礼な。

ムカついたから採寸のとき遠慮せず「トビさん太りました?」と言ったら容赦なくど突かれた。痛い。

「ここに来るのは、これで最後になるかもしれん」
「そうですか」

それにしたって、前回測ったときからそこまで時間は経っていないはずなのに、明らかにトビさんは身長が伸びた気がするし、丈も幅も大きくなっているのだけど、一体どういうことだろう。まさか成長期?いやいや、人のことをいつも「小娘」呼ばわりしておいて、それはないでしょう――とかなんとか考え事をしつつ、首を傾げながら腰回りを測っていたら、何を勘違いしたのか、背中から前へ回しかけた手を、トビさんに掴まれた。

「名残惜しいか?」
「え…?」

そのままぐいっと腕を引っ張られて、まるで私が抱きついたような形になってしまう。

「安心しろ。お前も夢の世界へ連れて行ってやる」
「……トビさん……、」

やっぱり。前々から、薄々思っていたけれど。トビさん。あなたって人は。

「……ごめんなさい、私、そういった宗教には興味がな――いたあっ!」

思いっきり踏まれた。踏まれちゃったよ、足を。さすがに酷いって。確かに今、「やっぱりトビさんって、あっち系の人だったのね」なーんて考えたけどさあ。

しかもよっぽどご立腹だったのか、危うく代金を踏み倒されるところだった。もうっ、勘弁してほしい。

「この泥棒!ろくでなし!」
「フン、今更だな」

え、なんて頭にハテナを浮かべていたら教えてくれた。トビさんって実は、なんだかすごい犯罪者だったんだって。暁、ってそれ私も知ってる。なにそれ聞いてない。私ってば今まで、そんな恐ろしい人と――、急激にゾっとして青褪めていたら、いつものように鼻で嘲笑われた。

「オレの温情に感謝することだな」

全くこの人ときたら、最初っから最後まで、変わらず偉そうな人だった。


END

2016/05/05

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