ずっとずっとあの人に、「近付くな」と固く禁じられてきたから、その目をかいくぐってやっと、やっと久しぶりに、故郷の地を踏むことが出来た。暁、だなんて、こんな立場になってしまったからには大手を振って歩くなんてとてもできはしないけれど、それでも、懐かしい故郷の空気に、どこか胸がいっぱいになった。

しかし、そんな私の思いとは裏腹に、わざわざ手間をかけてまで帰郷した“本当の目的”については、成果は全くはかばかしいものではなかった。確かに、目当てのひとつだった二代目火影の貴重な研究資料をちょっとばかし頂戴することには成功したが、大本命である“あの子”に関する有益な情報は、何一つ得られなかった。

まあ、それも仕方のないことかもしれない。ぽつぽつと気味悪く、整然と立ち並ぶ白い墓標の前で、私は一息ついた。忍の里なんて、所詮、そんなものなのかもしれない。みんな戦って、死んで、それで終わり。本当の意味で、この墓地の下で“安らかに眠って”いる人なんて、きっとほんの一握りにしか過ぎないのだ。


消沈した気持ちの中そそくさとアジトへ帰還すれば、「何処へ行っていた」と背後から、怖〜いお声がかかった。

「……少し、散歩に」
「……ほう?一体何処まで?」

何処まで、なんてわざわざ訊くからには、それはもう“全部知っている”ということなのだろう、この人の場合。だんまりを決め込んでいれば案の定、「ゼツから聞いたが」と言葉が続く。

「火の国へ行っていたというのは本当か?」

――やっぱり。最初っからわかっているなら、遠回りしないで、さっさと要件を言えばいいのに。なんて考えが顔に出てしまったのか、明後日の方向を見ていたら、不意に。

「――っ、」

バシッ、と、重い、乾いた音がして。殴られた。衝撃で身体ごとよろめいて、倒れそうになったところを、また乱暴に胸倉を掴まれて、あの真っ赤な眼で、仮面の向こうにある瞳で、冷たく睨めつけられる。

「いいか、余計な真似はするな」
「……っはい……、」
「お前はオレの言うことだけに従っていればいいんだ、分かるな?」

くらくら、ジンジンする痛みに揺れながら、どうにかこくこくと頷いていると、彼も一応は納得してくれたらしい。やっと身体が解放されて、私はひとり、取り残された廊下でうずくまった。


自室へ這い戻って、今日の資料を整理しようと机に向かってはみたものの、変わらず頬が熱を持って私を苛む。じっと巻物を見つめながら、唇を噛んだ。そして自分を励ますように、声に出して言い聞かせる。

「……だいじょうぶ」

……そう。大丈夫だよ。
彼があんなことをするのは。あんな酷いことをするのは、それは、彼がニセモノだから。
そりゃそうだよね。あの“彼”が、優しかった彼が、こんなことするはずない。するはずないんだから、今の彼は、きっとニセモノ。

だから私は、本物の彼に帰ってきてもらうために、こうやって必死で、頑張って、“あの子”を蘇らせるために、毎日努力してきたんだから。

「……うん。大丈夫、だよ」

大丈夫。安心して。心の中で、幼き日の彼と彼女に微笑みかける。大丈夫。もうすぐ私がふたりとも、綺麗に、元通りにしてあげるからね。

だからもう少しだけ待っていて、オビト、リン。


END


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先日メモで書いたネタから着想を得てできた話。
「お互いにこんなの偽物だと思いつつその世界を生きている滑稽感?妙な関係?」みたいなものを書きたかった気がする…。

2016/05/18

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