いつ、誰が使ったのか。そんなことも思い出せないような寂れたアジトへの赴任命令が、体の良い“クビ”宣告であることは名無子も百も承知であった。
だが、名無子の気が進まなかった理由はそれだけではない。
(本当に……大丈夫かな……)
出立前。トビとデイダラが不穏な会話をしていた。
メンバーたちとの会合の後、二人は、これから木ノ葉の“九尾”か“うちはサスケ”を探しに行くと言っていた。
木ノ葉の連中といえば、ついこの間、あの角都と飛段が敗れたのだ。思い返すだけでもおぞましい。“アイツらはやられた”と軽い口ぶりで告げられたとき、名無子は身も凍るような衝撃を受けたのだ。まさか。あの人たちが。そんなわけない――今でもまだ、少し信じられない気持ちでいる。
それに、もう一方のうちはサスケ。
なんでも大蛇丸を倒した人物だとか……さすがの名無子も“三忍”の名は知っている。しかもこの大蛇丸は、以前“暁”に属していたというではないか。それほどの実力者を葬ったという、うちはサスケ。対峙して無傷で済むとは到底思えなかった。
もちろん、名無子は愛する夫――トビ、マダラの力量を疑っていたわけではない。それでも、心配だったのだ。同行しているデイダラのことも気がかりだった。
(ちょっとだけ……ちょっとだけ、遠くから“視る”だけなら……いいよね……)
名無子は意を決し、身を翻す。
(ごめんなさい……リーダー……)
心の中で、ペインに詫びながら。
***
「ハアっ……ハアっ……っ、」
それから、名無子は全速力で駆けて駆けて。
とある森に差し掛かったところで、何か異変を感じる。
「っ、なに!?」
梢から一斉に鳥達が飛び立ち、遅れて地を揺るがす轟音がやってくる。
(これは……もしかして……)
嫌な予感がし、名無子は足を早めながら意識を集中する。
充分なチャクラを練ったところで、爆音のした方角へ“眼”を向ける。
「……デイダラさんっ!」
果たして、名無子の悪い予感は的中していた。
見ればそこには、ボロボロになって血に塗れた仲間の姿があった。
(助けなきゃ…っ)
向かいながら、辺りを見回すが、いくら探してみても“一番探していた人”は見つからない。
(待って……そんなはず……)
一度立ち止まり、深呼吸して。意識を研ぎ澄まし、視界を広げてみる。
(……、いた……!!)
デイダラたちからはだいぶ離れた場所。そこでやっと名無子は、愛する人の姿を見つけた。
「よかった…無事…」
満身創痍に見えたデイダラとは対照的に、至って大事無いその様子に胸を撫で下ろす。
気を取り直し、再びデイダラの方へ眼を戻す――が、その瞬間、ただならぬ悪寒に身の毛がよだった。
(あれは……何……?)
先程よりも、もっと嫌な予感がする。名無子は必死で目を凝らし、状況を探る。
口元の動きを読み取ろうと一層意識を注いで――
(これから……自爆!?)
そんな、バカなと思いながら、名無子は駆け出す。デイダラを止めなければと。だが、次の一言で、背筋が凍りつく。
「そんな、ウソ…半径…10キロ…っ!?」
咄嗟に身を反転し。名無子は一心不乱に走り出す。
木々を抜け。振り返ることもなく、感覚のなくなりそうな足を叱咤してとにかく走る。
ようやっと木々の合間に見慣れたオレンジを発見して、名無子は喉が破れそうなくらいに声を張り上げた。
「――トビさんッ!!!」
足は止めないまま、必死で、腕を振り上げ手を伸ばす。
「っ、名無子……お前、何故……!?」
「トビさんっ、」
“逃げて――”
名無子が全て言い終わるより先に、辺りが真っ白な閃光に包まれる。
何もかもが、炸裂する光の奔流に呑まれて。
名無子の意識は、暗転した。
つづく
2016/09/10