0:顕微鏡の中の星
きらきらと、光っている。
黒一色で塗り込められた、真空の闇の中。
無味乾燥にくり抜かれた、真白い円の中心で。
爛々と輝きを増す、赤く澄んだ球が、光っている。
――ぎらぎらと、見つめている。
どこか潤みを帯び熱を孕んだ赤い点が、同じく赤い球を見つめている。
透明な円盤を挟んで、赤と赤が、見つめ合っている。
もはやどちらが見ているのか、見られているのか、分からないほど。
けれどもその視線が絡まり合うことは、真に交じり合うことは、決して無い。
にも関わらず、赤い球は、まるでもっと見て、と訴えかけるように、妖しく光を放つ。
胸に溢れる悦びを映すように、赤色はよりのぼせ上がっていく。
隅々まで、隈なく、舐め尽くすように。
素肌どころか身体の内側、脳の裏側まで覗かれ、見透かされ、暴かれるこの行為が、たまらない快感となる――、そう言わんばかりの煌きに、透明体の向こうの赤も、共鳴するように瞬き出す。
美しい、と。まるであの遠い空の、星の瞬きを見ているようだと。
いつだって、身体を熱くする。いつだって、恋焦がれている。
「……今日はこの辺にしておくか、名無子」
今はまだ。返事の代わりに、ただ、虹彩を揺らめかせることしかできない。
そんな名無子はいつだってこの、円の向こうの男に焦がれている。
管が抜ける。異物が、去る。
細かな針が、棒が、板が取り除かれ、痺れにも似た高揚の波が、眼窩から引いていく。
微かな疲労感の中、全身を沸き立つ奔流に晒されながら、名無子は、レンズの向こうから遠のいていく赤い眼を、じっと見つめていた。
(2015/08/08)