零:いつか 土の中 のはなし


「もう行くの?」

地面から顔だけ出すと、コートを手にしたオビトが去って行くところだった。

「オレタチモ行クゾ……」

もう片方の“ボク”に急かされて、仕方なくもう一度地中に潜る。



これから“九尾狩り”が始まる。ボクたちは正面切ってやり合う能力なんて持ってないから、完全にオビトのバックアップ役。

少し前から、度々木ノ葉へ行っては内情を探っていたオビトに、「大丈夫かなあ」なんて、懸念がなかったわけじゃないんだけど。最近のオビトの様子を見るに、ま、杞憂で終わりそうだよね?そこはさ、流石“マダラ様”、って、あの偉大なるうちはのご先祖様に、感心したくもなるよ。


「無いよりはマシだな」なんてぼやきながら、戦場へ行って同族から目玉をとってきた爺さんが、“ついでに”なんて名無子を拾って来た日には、ぎょっとしたもんだけど。

いやあ、試行錯誤で名無子に柱間細胞を埋め込んでたのは、中々大変そうだったよね。ほとんど失敗作だったけど、「何かに使えるやもしれん」、なんてマダラが気まぐれで生かした名無子は、案外早く役立ったわけだ。

――オビトと名無子を接触させろ。

それまで“面倒事があると厄介だから離しておけ”なんて言ってたクセに、突然それを翻されて、一体どういう風の吹き回しかと思ったけど、全く人間ってヤツは、難儀なもんだねぇ。年の頃も近い男と女が一処に放り込まれればどうなるかなんて、マダラにはお見通しだったってとこかな。

あれからオビトには名無子のことをあれこれ吹き込んであげたり、名無子にはオビトのことを事あるごとに知らせてやったり、ボクも結構、甲斐甲斐しく働いたもんだよ。

そもそも名無子の失敗があったからこそオビトにはうまく細胞をくっつけられたんだろうし、マダラが最初思っていた以上に、名無子は役立ってくれたんじゃないかな?


それにしても、オビトが死んだ名無子を抱えて帰ってきたあの夜は、予想以上に効いたもんだと思ったよ。当のマダラも多分、一度目のあの夜、最初に打ち込んだオビトへの“楔”の威力を疑っていたわけじゃないんだろう。けれどもさ、やっぱり大事な計画だし念には念を入れて、ってことで、名無子は“第二の楔”になったんだよね。

今でこれなんだからさ、この先、名無子の里を直接攻め滅ぼしたのが“うちは”だったって知ったら、オビトは一体、どう思うだろうね?二重三重の鎖で雁字搦めにされていくのが目に見えるようだよ。

ま、マダラはそこまで計算尽くだったんだろうけど、そこまでいくと、名無子も中々どうして、可哀想な子だったかもね。オビトと一緒に暮らすようになって、無邪気に笑ってた名無子の顔、なんだかもう懐かしいよ。まあどうせボクらには関係ないんだけどさ、せめて君が誰かの夢の中で“大好きなオビト”と再会できるよう、ボクたちもそれなりに頑張らなきゃね。だから今は大人しく眠ってなよ、名無子?



***



パシャン。

『まだやってんの?』

『…あ、うん。なかなか上手くいかないんだけどね…んん…!』

『……名無子ってさあ……オビトのこと、好きなの?』

『――えっ』

パシャッ。

『あー…』

『ぅ……。……好き…、…なのかなあ……、たぶん…』

『…ま、いんじゃない?でも、オビトはさ――』

『分かってる。分かってるよ…。だからオビトには、言わないで』

『名無子はそれでいいの?』

『良いも悪いもないよ……だってきっと、オビトには迷惑なだけじゃない』

『…ふうん……』

『……私はさ……もう昔のこととか、なにも自分には残ってないけど……でも、オビトに会えて、いっぱい楽しいことも、嬉しいことも、知れたから。それだけでもう、充分だから。だから……』

『…………』

『私は、オビトが幸せになってくれれば、オビトが笑ってくれるなら、それが一番だから』


パチン。

ひっそりと息づいていた小さな水泡が、何処かで儚く、弾けて消えた。



『蜉蝣』 完

(2015/06/13)

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