最強。 “男に生まれたからには”などという言葉があるが、女だって憧れるに決まっている。 現に私は幼い頃から強さを追い求め、忍として修行に励んできた。 しかし、私が己の力量の限界を知るのに、それほど時間はかからなかった。 自身の無力さを噛み締め、挫折を味わったのは、もうずっと前のことだ。 それでも、努力はきっと無駄にならない。 私ひとりの力だって、いつか役に立つ日がくるかもしれない。 そう信じて必死に鍛錬してきた私は、今日、第四次忍界大戦の前線へ赴く。 *** 「負傷者は後ろへ!無理をするな!」 あちこちで悲鳴が上がり、土煙の中を人々が錯綜する。 自分の小さな力でも、なにかできることがあるならと、ここへ来たのに。 見たこともない異形の敵、圧倒的実力差。それらに押し潰されそうになる。 立ち竦む私は、ただここで立っているだけで精一杯だった。 そして疲労を色濃く顔にまでのぼらせているのは、なにも私だけじゃなかった。 なんとか希望を捨てずにやってきたけれど、もう。 「くるぞ!」 敵は項垂れる時間さえ与えてくれない。十尾の尾が鞭となって、上空から襲いかかる。 「息を合わせろ!」 近くにいた男の人たちが、数人がかりでそれをいなした。あれは、日向一族の人たちだ。 ふと、そのさらに向こうで、急激なチャクラの高まりを感じる。 日向の人たちもそれに気がついたのか、そのうちのひとりが目を見開いて、声の限り叫んだ。 「おいみんな!伏せろおおお!!」 嵐の前の静けさ、と言うのだろうか。一瞬、辺りがしんと静まり返った気がした。 それからヒュウウウ、と、不思議な、流れのようなものを微かに感じた。 「日向ヒアシ――!!」 誰のものかも知れない、怒号。 カッ 辺りが白に包まれる。 遅れてとてつもない衝撃がやってきて、私は強く吹き飛ばされ、土の上に転がった。 ゴゴゴゴ、と地鳴りが止まない。 先程までの人々の喧騒は掻き消えて、徐々に視界も晴れていく。 全てのものが薙ぎ倒された中、たった一人、凛として立つ姿があった。 「日向は木ノ葉にて最強」 覚えておけ、と。 毅然とした態度で、けれどもどこか余裕すら感じさせる表情で、その人は言った。 「最強……」 間違いない。 私が幼い頃に憧れ、本当は今でさえ、求めて止まないその言葉。 それが今、目の前にあった。 「日向は木ノ葉にて、最強…!」 木ノ葉にて最強の日向、そして日向にて最強のヒアシ様。 彼の前にはもはや、敵の一片さえ残ってはいないのであった。 END |