![]() それは遡ること、かれこれ数十分ほど前のこと―― 「ふんっ、と……よし、これはなかなか…!」 「ん、なにやってんだ名無子?」 「あっ、デイダラ。いやね、今日つくるカボチャスープの仕込みをしてて…」 「ああ、だからカボチャの皮がこんなにあんのか」 世間はすっかりハロウィンムード。その雰囲気にのせられて、私もついついカボチャ料理が食べたくなってしまった。それで早速オレンジ色したおいしそうなカボチャを買ってきた、そこまではよかったんだけど。 「ねえ、ちょっとこれ見てよ。……なにか思い出さない?」 さっきまで料理そっちのけで作業してしまった、カボチャ“だったもの”を差し出す。 「……ブッ、おい、これまさか、トビじゃねェか?」 「そう!でしょっ?なんかね、ふっとこのカボチャ、トビのお面に似てる!?って思ってね、つい出来心で」 一度見えたらもうそれとしか思えなくなって、ナイフやらなにやらを駆使して、私はいつの間にか、このカボチャのお面を彫ってしまったのだった。 「確かに…こうしてみると…だがまだまだだな、うん。ちょっとオイラに貸してみろ」 デイダラはお面を手に取ると、荒削りだった形を器用に整えていく。 「……うわあ!デイダラすごい!」 「あとはこことここをを削いで、っと…どうだ?ざっとこんなもんだろ」 「…プッ、あは、あっははははは、すっごーい!トビにっ、ふっ、そっくりー!貸して貸してー!」 自分でつくったのとは見違えた、本当にそっくりの仮面。正直いつもデイダラの芸術センスを疑っていたけれど、腕は確かだったらしい。見直した。 「ね、みてみて〜、トビごっこ!でぇいだらせんぱぁ〜いっ!」 日頃あのウザいキャラに付き合わされる鬱憤やら、さんざんこき使われたほんのちょっとばかしの恨みも込めて、思いっきり“トビ”のふりして戯けてやると、デイダラが「ブッフ!」と変な音をたて吹き出した。 「気持ちわりィ!ぐねぐねすんな!」 「え〜そう言わずにぃ……あ、そうだ。こんなのどう?」 私は一度お面を外しテーブルに立てかけると、脇に置いてあったロウソクを手にとり、マッチを擦って火を点けた。 ……カボチャついでにチョコレートやらクッキーまで買ってしまって、あまつさえこんな雑貨品までその場のノリで買ってしまったのを後悔しかけていたけども、案外すぐに役立つときが来るものだ。 「じゃじゃーん!トビ・オー・ランタン」 「……っ、く、やめろっ、その目ンとこが光ってんの、クソうぜェ…ッ、」 「アハハ!ねっ、このだっさいカボチャお面さあ――「ア〜ッ先輩方こんなところに!」……あ……」 ピシャリ。 天国から地獄。このときの私は、舞い上がっていた気分が一気に急降下し、地面へと叩きつけられたような、そんな心境だった。 一方のデイダラは、心底鬱陶しそうな表情を浮かべ“本物のお面”を見据えた。 「なんだよトビ?」 「デイダラ先輩、さっきあっちでリーダーが探してましたよ」 「あ?一体何の用だ、仕方ねェな……」 「ちょ、ちょっとデイダラ!……、……」 デイダラはあっさりと去ってしまい、その場に私とトビの二人だけが残された。 ……いや。二人だけなら、まだよかった。目の前にはあの、カボチャのお面も残ってしまっていた。隠しようもなく、堂々と。チカチカ光りながら。 「……名無子せんぱーい。あれれぇ、これ、なにかなあ?」 「…………」 「アッ、もしかしてぇ、ジャックオーランタン、ってヤツっすかあ?わあ!このキャンドル、ボクも火ぃ、つけてみてイイッスか?」 ……ごくり。生唾を飲み込んだ。 「い、いいけ「火遁・豪火球の術」――……、」 「……さて、と。次はお前だな」 「ひっ、ひいぃ!どうかっ!どうかお赦しください、トビ様マダラ様――あッ、つぅっ!やだっ!服がっ!服が燃えちゃうぅ!!」 ![]() ――と、いうワケで。今現在、私は這いつくばって土下座しトビに許しを乞うているという、なんとも情けない状況に置かれている。しかも。 「……あ、あのー……、せめて、服を着替えたいのですが……」 なぜか火遁でうまい具合に(いやむしろマズイんだけど)焼き焦がされ、ボロボロになった服のまま……。身体に被害が及ばなかったのは不幸中の幸いだけど、一歩間違うと大変なことになりかねない、色々とキケンな状況である。 「おい、まだ顔をあげろとは言っていないが」 そして極めつけにこれ。 私だって女だし、極力みだりに肌を露出することは避けたいのだが、ちょっとでも動こうとすると背中にぐぐっと圧がかかる。そう、私はトビに踏まれている――なにこれ一体なんのプレイなの? セクハラだとか、理不尽だと怒りたい気持ちも当然ある。が、今この瞬間、トビがその気になれば私の背骨どころか内蔵まで踏み抜かれてイチコロなんだと思うと、悲しいかな、身体が勝手に平伏してしまう。 「うぐ……あっ、ちょっと、なにして、」 そんなこんなで呻きながらひれ伏していたら、背中に置かれていた足がつつっと降りてきて、脇腹から太腿のあたりをぐりぐりと無遠慮に小突きだした。 「お前、最近太っただろう」 「は!?」 直後、軽く食い込まされていたトビの足先が横へ逸れたかと思うと、ビリッと、嫌な音がした。 「やっ、やめっ、」 嘘でしょ?と疑いたくもなったけど、トビは破けた服の端を爪先に引っ掛けて、ぐいぐいと絶妙な過減で引っ張ってくる。 「いや、服が随分キツそうに見えたんでな」 白々しいセリフが最高に愉快そうな声色にのせて紡がれる。流石に抵抗しようと身動ぎしてみたけれど、最悪なことに、ここにきて自分の足が痺れきっていることに気が付いてしまった。膝から下の感覚さえ覚束ない。……絶望だ。 フン、と鼻を鳴らして小馬鹿にしたようなトビの嘲笑い声に、ビビビ、と布の千切れる悲鳴じみた音が重なった。そのとき。 「ここにいたのか、トビ、さっきデイダラが――……」 「え」 突如響いたトビ以外の声。脳裏に混乱が走る。私はいまだに土下座状態、だからなんにも見えない、んだけれどはっきりわかる。この声は紛れもなくペイン、リーダーのもの。 ……しん、と辺りが一瞬静まり返り、妙な空気に包まれた。 「……いや、邪魔したな」 「あ、え、リーダー待って!待ってこれは、誤解だから!!」 颯爽とマントを翻し去っていく後ろ姿へ追い縋ろうとするも、痺れの回った足ではそれも叶わない。なすすべもなく、私の身体は崩れ落ちた。 ああリーダー……あなたは私の憧れの人だったのに。 絶対にドン引きされた。死にたい。 「おい名無子、誰が頭をあげていいと言った」 「ぐっ、」 踏みつけられた身体のあちこちが痛い。でも、それ以上に心が痛い。そんな秋の、今日この頃。 END Thanks 30,000 hit! & Happy Halloween! ![]() |