※上忍オビトっぽい平和な木ノ葉IF設定です。OKな方だけどうぞ。



秋も深まり、肌寒さが増してきた、十月のある日のこと。
木の葉舞う街並みを、オビトと名無子、二人が並んで歩いていた。

「はあ…オビト、ハロウィンって、素敵な行事だよねえ…。まるで私のためにあるみたい」

オレンジと紫で彩られた商店街を眺めながら、名無子が呟いた。

「ああ、確かにな……だがお前の場合は、菓子目当てでどうせイタズラはいらないんだろ?あまり食いすぎるなよ」

「ふん、わかってまーす!余計なお世話です!」


今、木ノ葉隠れの里は空前の「ハロウィン・ブーム」だった。

五大国の歩み寄りにより、大小問わず忍里同士が活発な交流を持つようになって、早数年。
木ノ葉へも他里から新たな文化が流入し始め、そのひとつが「ハロウィン」として定着しつつあった。

十月になると、里の街並みはすっかりハロウィン・カラーに染まる。
店の軒先にはカボチャやオバケたちが飾り付けられ、心なしか里全体が賑やかな雰囲気に包まれる。

普段からお菓子大好きを公言して憚らない名無子は、この日を心待ちにしていた。
そしてそのことを、オビトも十二分に感じ取っていた。

「ねっ、私はさ、真っ先にオビトのとこに行こうかな〜」

「は?なんでまた」

「だってオビト、いっつもお菓子持ってるから。アメとかチョコとか」

「あれはな…いっつも爺さん婆さんが押し付けてくるんだよ……」

ははは、と屈託なく笑った名無子の顔を、オビトは少し複雑そうな表情で、横目に盗み見る。

この些細な会話が――少なくとも名無子にとっては、深い意味もない、他愛もないやり取りが、後にちょっとしたいざこざを生むことになるとは、まだ誰も知らなかった。



A woman's heart and Halloween weather




「ああ〜〜〜また駄目っ!どうして膨らまないのぉ……」

日付はとんで、ハロウィン前日、十月三十日。
名無子は自宅で菓子作りに悪戦苦闘していた。

「もうっ、シスイっ、どうにかして!」

「おいおい、そりゃ無茶だぜ……」

しかも、たまたま名無子の家の前を通りかかった、友人のシスイも巻き添えにして。


ちょうど先日。シスイの誕生日をみんなで祝おうと、名無子たちはちょっとしたパーティーを開いた。
そのとき、「シスイは抜群に料理が上手い」と誰かが口にしていたのを、名無子は耳聡く聞きつけ、覚えていた。

だからお菓子作りがまったくうまくいかず、気分転換に外の空気でも吸おうと家を出たところで、ばったり出くわしたシスイを半ば強引に作業に巻き込んだのだった。

といっても、普段の料理とお菓子作りとでは、話は別。菓子なんてまともに作ったことがなく手伝いようがないと途方に暮れるシスイは、失敗続きで不機嫌な名無子にほとほと手を焼いていた。


「にしても、こんなん作ってどうするんだ?オビトさんにでもあげんのか?」

「えっ、なんでオビト?」

きょとん、と目を丸くした名無子を見て、シスイは「しまった」と、少々バツが悪そうに頭を掻いた。

「いや、あー……」

「いやね、せっかくのハロウィンなんだし、自分でも色々お菓子作って食べてみたいなと思ってさ。あ、シスイにもあげるよ、うまくできたらね。オビトは…う〜ん、多分、いらないんじゃないかなあ、オビト、いっつも自分のお菓子持ってるし」

「“爺さん婆さんに押し付けられる”とかって言ってたしなあ…」と悩む様子の名無子に、シスイは苦笑いして溜息を吐いた。


オビトと名無子の関係は、一部の人々の中では割と有名だった。「とっととくっつけばいいのにカップル」として。

二人を知る人々は口を揃えて言うのだ、「あの二人は相思相愛だ」と。けれども不思議と、いつまで経っても交際関係には発展しない。友達以上恋人未満。なんて表せそうな関係を、今どき地でいっているのだ。

(オビトさんも中々、可哀想だよな……)

シスイはそっと心の中で、同じ一族の先輩に同情した。

オビトの側から名無子に対しての好意はわかりやすいくらいなのに、どうにも名無子は気づいていないらしい。というよりも、名無子はちょっとマイペースなきらいがあるから、オビトがなにかと振り回され気味な様子だった。

そもそもオビトには幼い頃からの想い人がいて、その件で以前ひと悶着あったせいか、色恋沙汰を敬遠している節があった。それをやっと乗り越えて、ようやく進展しつつある二人の恋路を、どうにか応援してやりたいと思う人も少なくなかった。

シスイもそう思っているひとりではあった。が、いい年した二人の関係にあまり外野がとやかく言うべきではないと考えていたため、今はひっそりと見守っている形だった。


そうこうしているうちに、名無子はついに、最後の材料をダメにしてしまったらしい。

「ああっもうっ!…なんでえ……はあ……」

「……なあ、それなら、無理して手作りにこだわることもないだろ?明日一緒に店でも見に行こうぜ、な?」

「…うん…、そうだね……」

「…実は明日な、イタチとスイーツ食べ放題フェアに行く予定なんだよ。ほら、名無子もどうだ?」

シスイはポーチにしまっておいたチラシを広げ、名無子に差し出した。

「……あっ、これっ!私すっごく行きたかったんだ!絶対行くー!」

項垂れたりむくれたり、忙しなかった名無子は、今度はきゃあきゃあと目を輝かせ黄色い声をあげはじめた。

そんな名無子にシスイはやれやれ、と軽く肩をすくめ、二人で散らかったキッチンの片づけに取り掛かったのだった。







――それから、ハロウィン当日の朝。

ところ変わって、うちは居住区のとある家の中で、ひとりの男が悩んでいた。

「来る……いや、やっぱり来ない…か……いや、でも……」

彼、うちはオビトは深刻に悩んでいた。今日、名無子が自分の元へ来るか、否か。

実はオビトはハロウィンに名無子が来るとひとり先走って、密かに気合いを入れて菓子類を用意してしまった。
けれども、これまでの名無子の思わせぶりな(と、少なくともオビトは思っている)態度により幾度も空回りさせられてきたオビトは、ここにきて「名無子は本当に来るのか?」という疑念に取り憑かれてしまった。

「ハア……」

オビトは頭を抱え、テーブルの上でしょげている一輪の花に目をやった。

ただのグラスに水を汲んで挿してあるだけの、その薄紫のコスモスは、ついこの間この部屋へやって来た名無子が、『殺風景だねえ、花のひとつでも飾ればいいのに』と言うので、オビトが適当に道端で見繕って摘んできたものだった。

もうすでに萎びはじめ、いくつか花弁も落ちてしまっているそれを手に取り、オビトはぷち、ぷち、と順に花びらを千切った。

「来る、来ない、来る、来ない、来る、来ない……、……来る」



一方その頃。
シスイ、そしてイタチと合流した名無子は、早速甘味処へ向かい舌鼓を打っていた。

「やはりこの店の団子は格別だな」

「ほんと、おいしーい!あっ、シスイ、それちょっとちょうだい!」

「あっ、おい!」

呆れ返るシスイをよそに、名無子とイタチは次々と皿を平らげていく。

(はあ…昨日はあんなに不機嫌だったのに、嘘みたいだな…)

その後も三人は何軒かお店を食べ歩き、夕方近くまで甘味を満喫した。


「すまない、オレはそろそろお暇するよ。この後サスケとの約束があるからな」

「そっか、イタチ、今日はありがとね!サスケくんにもよろしくね!」

「おう、またな、イタチ」

それから「送って行く」と言うシスイの厚意に甘え、名無子も帰路についた。


メインストリートを出て、里の外れへ差し掛かった頃だろうか。

「……おい」

ふと、二人の背中へかけられた声に、シスイは「しまった」となぜか、反射的に心臓を跳ねさせた。

「あれ、オビト」

「こんなところで、何してるんだ」

「なに、って……オビトこそどうしたの?そんな怖い顔して」

「……」

特段悪事をはたらいたというわけでもないのに、シスイは、向かい合う名無子とオビトの微妙な空気に、ちょっとした居心地の悪さと、小さな罪悪感を覚えていた。

そしてなにより、眉間に皺を寄せたオビトのキツイ表情を見て、どうやら自分は下手打ったらしいと、漠然と悟ったのだった。

「ちょっと、オビト?」

「名無子、借りるぞ」

「あ、はい」

「えっ?うわっ、」

オビトに強引に手を引かれ去っていく名無子の後ろ姿を、シスイは黙って見送った。
「幸運を祈る」、そんな風にひとり、心の中で、名無子ともオビトともとれぬ相手へ呟きながら。



「ちょっと、オビト!どういうつもりっ?」

有無を言わさずオビトに引っ張られ、名無子も不満を露わにする。

「それはこっちの台詞だろう?」

対するオビトも負けじと食って掛かり、そのまま名無子を家まで押し込む。

しかし、へそを曲げそっぽを向いていた名無子が、部屋にあがったところでぴくり、と反応を示す。

「なんだか…やけにいい匂い…?」

そこでオビトは一度、名無子を恨みがましそうに見つめてから、口を開いた。

「お前が今日、真っ先に来るなんて言うから、用意してやったんだろうが」

「えっ?」

そんなことなどすっかり忘れていた名無子は目を見開いた。
しかし徐々に数日前の出来事を思い出し、自分の落ち度を感じたのか、言葉を詰まらせ表情を曇らせる。

「そっか……ごめんね、オビト、私」

「いや、もういい……。だがせっかく用意したんだ、食べるなら食べて行け」

「…いいの?」

「ああ」

案内された先には、プリンやチョコレート、パイにクッキー、お菓子が所狭しと並んでいた。
それぞれハロウィンらしい細かな飾り付けが施されていて、名無子は一転して「わあ!」と喜色満面の歓声をあげる。


「んー!このタルトなんか、すっごい絶品!いくらでも食べられそう!」

「そうか、ならよかった」

「オビト、あの…ありがとう」

少しはにかみながら、幸せそうな顔でタルトを頬張る名無子に、思わずオビトの表情も緩む。
先程までの険悪な空気など忘れてしまったかのように、和やかな時が流れていた。

そう、次のたった一瞬で、今この場の空気が崩れ去ってしまうことなど、誰も予想せぬほどに。


「このかぼちゃプリンもおいしいよ!ねえ、これ、いったいどこで買ったの!?」

「フッ……驚くなよ、全てオレのお手製だ」

「………は?」

「このカラメルソースなんかな、苦労したが中々いい出来だろう?その…あー、お前の…ために……、どうした名無子?…おい…名無子…どこへ行く…!?」



「――と、いうわけでな、こんなのおかしいだろう、なあ、カカシ!?なぜ名無子はあんな急に不機嫌になる?オレはこの日のためにここ一週間、木ノ葉指折りの菓子職人の元へ通い詰め、写輪眼で技を完全に見切った…再現だって完璧だった、味も文句なかった、はずだ。雰囲気も十分だった、なのに何故。なぜ、こうなる?この後今度はオレが名無子にトリック・オア・トリートでイタズラするシチュエーションまでちゃんとシミュレートしていたのになぜ、何故こうなるんだカカシ!?」

「それが女心ってモンだよ、オビト」




END

Thanks 30,000 hit!
& Happy Halloween!


2015/10/31


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