「あんたなんかに殺されるなんて、真っ平御免よ」

けほっ、ともう霞む視界で血を吐きながら、ぎらぎらと赤い視線で私を射抜くこいつを鼻で笑ってやる。きっと私に裏切られるなんて夢にも思わなかったのだろう、怒りを露わにしているその姿、最後にいいもの見られたわ。

「名無子…!」

ぎり、と、只ですら放っておいてももう死にそうな私を掴み上げる彼の腕。
本当、こんな感情を露わにした彼の瞳ははじめて見た、でもそれもそうかもね、だって私はこれでも、最も彼の近くで、最も長く、最も忠実に、最も多くの仕事をこなしたわけなんだから。

ねえ、そんな私が、どうしてあなたの元を離れていくのか、あなたには分かる?

「っは、あんたなんかに…」

そうよ、あんたなんかに。
心を殺してひたすら想い続けた、それでも私じゃない誰かを見続けているあんたなんかに、私を見てくれないあんたなんかに、

「あんたなんかにやられるなんて、死んでも御免よ」

ガリ、口の中で、カプセルが弾けた。



――それから、一千とんで八十と数年。

なんてくらいだったらちょっとは格好がつきそうなものだけど、一体どれだけ経ったのかは私も分からない。ともかくこんなことがあっていいのか、どうやら私は、輪廻を廻って生まれ変わったらしい。


「おーい名無子!さっきのノート見せてくれ頼むっ!」

「ええオビトまたぁ?いいけど…」

しかも都合よく、大体周りのやつらもそのまんまなんだよねえこれが。

「おいオビト、早くしろ」

「るっせーちょっと待ってろバカカシ!」

教室のドアにもたれかかってオビトを待っているカカシ、その後ろからさらにひょんと顔が覗く。

「カカシ!オビト!」

「リン!」

ぱあっと、あからさまに表情を変えたオビトに、私もこれ見よがしに溜息を吐きたくなるが、ぐっと我慢する。
ガリガリと人のノートを書き写しているお世辞にも綺麗とは言えない文字を眺めていると、あっという間に別れの時間。

「ありがとなっ名無子っ!」

じゃあね、と三人が教室から出ていくのを手を振って見送る。



本当に、世の中って意外となんでもありなのだなあと、ひとり教室の天井を見つめながら思う。

昔聞いたことがある、強く深く思い合う人の心は、途切れぬ縁を生むものなのだと。そしてその縁は、たとえ生まれ変わったとしても、再び人々を巡り合わせるものなのだと。

世界を壊すだのなんだの暴れていたヤツのことだ、そんな妙な縁とやらを生むほどの執念くらいあって当然かもしれない。ぱらぱらっと、今さっきまでオビトが手にしていた自分のノートを捲って、鞄にしまう。


いつもは隙あらばリンに近付こうとするオビトだけど、たまにこうして私に頼ってくることもある。それを無碍にできずにいる自分に呆れる、本当あの男は、昔も今も人の可愛い乙女心を弄ぶ不届きな輩だ。

そんなヤツをまた懲りずに追いかけている物好きは、紛れもなく私なのだけど。


“死んでも御免よ”なんて啖呵を切って死んではみたものの、やっぱり“死んでも御免”だわ。

たとえこうして生まれ変わってもちっとも私を見てくれないあんたなんか、あんたなんか。


生まれ変わっても
また結ばれない



ぎゅっと唇を引き結んで、拳を握って教室を飛び出すと、廊下で女子たちがきゃあきゃあと騒いでいた。
“バレンタイン”。漏れ聞こえてきたその単語を、ああ、もうそんな時期かと、他人事のように聞き流す。

そこでどうしてそう思ったのか自分自身分からないが、ふと、今年はこのチョコレート販売戦略に私も乗っかってやろうかと、漠然と思い浮かべた。

そうして、ギトギトの重々な、思いっ切り露骨な本命チョコをあいつに押し付けて、少しは困らせてみようか。リンからチョコをもらえるかとそわそわしているアイツのバレンタインを、ぶち壊しにしてやろうか。

そう頭の中で思い描いてみると中々悪くない。
私の積もりに積もった苦いこの想いを、いっそ洗いざらいぶちまけてやろう。
甘い甘いチョコレートにのせて。



END

(2015/02/07)

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