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 こっ、とその一音で詰まった彼は、寝室のドアを潜る頃恥ずかしそうに、「気障野郎が」と言った。
 一応呆れた様な口調だったが、口元の緩みは隠せておらず、私はまた笑った。

「滅多に私には微笑みかけて下さらないにも拘わらず、その他大勢であるところの招待客の皆様には実に好青年然といった風に笑ってらしたではないですか。私が彼等をどれ程羨んだか、貴方には判らないでしょう?」
「っ、大野……!」
「貴方が好きだと自覚した途端、崖を転げ落ちる様に貴方に夢中になっていく自分が気持ち悪くて、そのくせ、それを改善しようと思えないのです。罪作りというのは恐ろしいですね」
「も、もうっ……その話題は止めろ」

 ドア脇のスイッチを入れる。就寝用のそれは薄く室内を照らすもので、完全なる暗闇だと逆に寝付けない主人の為に昔私が手配したのだ。
 そっとベッドに恋人を寝かせた。全体的に暗いとはいえ、彼の頬が赤いのは見て取れた。
 使用人の礼服をわざと見せ付ける様に脱ぐ。ネクタイもジャケットもその辺りに放り、上半身はシャツ一枚になったところで真さんの衣服に手を伸ばした。
 視線が合ったので微笑むと、彼はついと眼を逸らしてしまった。既に紅葉した横顔が愛らしい。

「っぁ……」

 首元からリボンタイを引き抜いた絹擦れ音にさえ真さんは反応し、小さく鳴いた。弱々しくシーツを握る手に己のそれを重ねる。
 潤んだ瞳が私を捉え、年甲斐もなく胸がときめいた。

「大丈夫です、いつも以上に優しくしますよ」
「ん……」

 微かに頷く彼を見て、ふと嗜虐心が首を擡げた。

「ああ、もしかして酷くして欲しかったのですか? 泣いてしまわれる程に?」

 興奮したのだろう、膜を張った双眸から細い筋が流れたのを指摘すると、真さんは何も言わずに持ち上げた右腕で目元を覆ってしまわれた。

「っ早く抱け、馬鹿……!」
「仰せのままに」

 最高のおねだりとともに緩く足を開いてくれた真さんの、真っ白いスラックスを下ろす。
 目線を上げれば下着の中のものが膨らんでいた。此方を窺う真さんを見詰めながら、やんわりとそれを握った。

「…ッ!」

 がくんと跳ねた腰に満足し、ゆっくり上下に動かす。
 嫌々と首を左右に振るのとは対照的に、彼の両足は無意識だろう、徐々に開いていくのだ。

しゅっしゅっ、くしゅっ
くちゅ、ちゅくっちゅく

「気持ち良いですか?」

 先走りの混ざる水音が聞こえ始め、判り切った質問をする。
 答えは涙の滲んだ眼を閉じ、「あっ、あっ」と小刻みに喘ぎ声を放つのに代わった。
 濃い染みが下着に浮き上がってくる。開き切った四肢を投げ出し、しどけなく全てを私に任せてくれるその肢体を、心から愛しいと思った。

「おお、のッん、ンふぅっ…! あ、あ、大野ぉ…ッ」
「はい、真さん?」

 びくりと身体を震わせ、一度喉仏を表に晒して、真さんは涎の伝う唇を開いた。

「ぬがせっ…下着、あっ、あっ、脱がせろ…ンふ、ア! ぃやァ…!」

 可愛らしい命令に逆らう事なく、「腰を浮かせて下さい」と私は言った。



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