名前を知らない世界 3 | ナノ

名前を知らない世界

 懸命に歩き続けて辿り着いた人のいる場所。入口に立っていた見張りの人間に話しかけると奇妙な顔された。驚いた様な眼を向けられた後、やんわりと細められた瞳にあまり良い気分がしない。

「僕、一人なのかい?」
「……そう、だけど」

 かっちりと軍服を着こみ見るからに堅そうな男が幼い子供にする様な対応に首をかしげて、ルークはハッとした。『幼い子供への対応』をされるのも当然だ、今の自分はどこからどう見ても幼い子供なのだから。

「保護者は?」
「…保護者(というか守護者?)とは逸れてしまったから」
「外から来たようだが、はぐれたのはこのカイツール軍港でかな?」
「違う」

 ふるふると首を振れば幼い仕種の所為か、男は自然と表情を緩める。ルークの背に合わせて少し屈んだ男の背で一つに束ねられた色素の薄いプラチナブロンドの髪が揺れた。どこかであったことがある気がする。けれど、頭の中はもやもやとするばかりで彼が何者なのかなんて一向に出てきそうにない。

「僕、名前は?」

 子供相手というのは分かるのだが、言葉を崩す彼が少し気持ち悪かった。こういう人じゃないんだと、頭の中で何かが否定するように訴えかけていた。

「名前…、貴方は?」
「…グレン・マクガヴァンだ。」

 素直に答えない子供にどう思ったのか、けれど目に見えて表情を崩すこともなくグレンと名乗った男はルークへさらに名を問う。

「俺はルクス。だけど、みんなにはルークって呼ばれてる。」
「君は…キムラスカ人なのかな」
「…多分、ちがう」

 誰から生まれたとか、どこで生まれたとか、そういうのは自分には無いのだから、彼の言葉には否定でしか返せない。
 ただ、その答えがグレンの想像とは違ったのか、少しばかり難しそうな顔をして考え込んでしまった。

「マクガヴァンさん、譜歌って知ってる?」
「…あ、ああ…一応は知ってるけど」

 流れにそぐわないことを急にいだした子供に男は軽く首をかしげる。

「どこに行ったら、覚えられるんだ?」
「どこって…譜歌か、使う人を見ないからな。譜歌を扱う人を音律士(クルーナー)と言うんだが、実用性があまりないから軍には譜歌を使う人間もいないし、使い方も教わらない。習うとしたらダアトだな。譜歌と言えばユリアの譜歌、ユリアに関する所が残されているローレライ教団でなら教えてもらえるかもしれないが…」

 答えるグレンの言葉はルークが彼を見て思ったようなしゃべり方だった。やはり個の方が自然な気がするし、なんとなく自分が安心する。

「ダアトのローレライ教団はどうやって行けばいいの?」
「ここからだとキャッツベルトに乗ってケセドニア経由で行くか、或いはグランコクマの港から出ているダアト直行便に乗るかだな」
「…ありがとう、ございます」

 ぺこりとお辞儀をして踵を返した子供に驚いてグレンは子供の手をつかんだ。

「待て!…一人で行く気か?はぐれたという保護者は!?」
「一人って、ここに来た時からずっと一人だし。彼らには譜歌が無いと会えないみたいだから」

 子供の言っていることが分からずに首をかしげるグレンにも分かったのは、子供が譜歌を求めて一人でローレライ教団に行きたがっていることだけだった。

「待ちなさい。移動するのにもお金や通行手形が必要なんだ。子供一人で行けるような距離でも道のりでもない。」
「俺は戦えるから大丈夫、です。」

 腰に下げた剣に触れれば、今気付いたと言わんばかりにグレンの目は驚きに見開かれた。小さな子供が持つ剣は大人が振るうそれと変わりない。酷くちぐはぐな様子に眉を寄せる。

「その君はルーク・フォン・ファブレという名前では…」
「違う。ルークと言うのは字だから、それは俺の名前じゃない。」

 ふるふると首を振り、違う人物だとはっきり意思表示した。正直懐かしい響きだとは思ったけれど、自分の名はルクス・ディ・オラ・カエラム=ツァイト=フィンスター(中略)・カントゥスなのだから。別の人間である。

「マクガヴァンさん、悪いけど俺は保護者がいるような人間じゃない。それどころかこの世の理が通じる存在じゃないんだ。」

 こんな姿をしているけれど、確か本来はもっと大きな体をしていた。

「しかし、その色を持っていて…」
「色?」
「赤い髪に緑の瞳、キムラスカ王族の特徴で」
「へぇ、そんなものがあるのか…」

 それはなんとなく都合が悪い気がする。しばらくの間はフードをかぶってやり過ごすこともできるだろうが、フードの端からこぼれる色はどうしようもない。

「…まあ、それもあいつら呼びだしたら何か方法があるだろうし……じゃ、色々教えてくれてありがとうございました。」

 ぺこり、とお辞儀をしてまた踵を返す。とてとてと子供らしい歩き方で歩いていく子供をぽかんと見送っていたグレンが我に返ったのはそれから十秒ほどしてのことだった。

「ま、待ちたまえ!だから子供一人は危険だと」
「だから俺は戦えるって!一人でも大丈夫なんだよ」
「こんな幼い子供を一人だと分かっていて行かせるような人間がいるか!!」

 半ギレのグレンに目を丸くしたルークは言葉を無くしたように彼を見上げていた。

「君は本当にルーク・フォン・ファブレではないんだな!?というか、そもそも私はこの時点で、君に会うなんて事はっ……どういうことなんだ!?」

 混乱した様な男の様子にかける言葉も見当たらない。

「違う行動をしてもすぐに戻ってたはずなのにっ…」

 そうして子供を見下ろしたグレンは、まん丸に見開かれた瞳と視線が合い冷静さを取り戻す。

「あ、いやっ…スマナイ!混乱していて……」
「繰り返してることを理解して…?」
「え?繰り返し?何のことだ…、いやわかるような、分からないような…」

 痛そうに頭を押さえたグレンにルークは駆け寄る。

「だ、大丈夫っですか…」

 そうして触れた瞬間ぱっと光がはじけた。グレンから現れた淡い光がルークへと入り込む。そうして二人はしばらくの間、身じろぎもせずに固まっていた。

「…え、…あれ……んん…??…えっと…グレン・マクガヴァン…将軍…?」
「私はまだ将軍では…」

 二人は見つめ合ったまま、首をかしげるばかり。見張りの交代で代わりの兵が来るまで彼らは首を傾げあっていた。




2012/05/01
グレンからルークに関する記憶をちょっと拝借
書いてる自分が混乱する設定なので、かなり読みずらいですね。まあ、雰囲気で呼んでもらえたら〜
ギャグとかってどうやって描くんです?シリアス一直線のシリアス脳\(^o^)/


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -