●名前を知らない世界
終わってしまった。同時に始まってしまった。渡り歩いた世界は名前も知らない何かに成り下がって、哀しみと虚しさに声を枯らし目を赤くする。
何かにすがり付き、その全てから目を逸らしたかった。誰だっていい。母親、権力者、神でも、悪魔でも、誰だっていいから、こんなのは只の悪夢にすぎないと笑って言って欲しい。例え其れが嘘だったとしても、優しい嘘で心を偽る方がこんな現実よりも遥かにましであると、そう思う。
けれど結局どんなに嘆いても、奪ったものを、大切なものを、持てる全てを引き換えにしてまで醜く縋りついたはずの世界は、言葉に表せない悪感情を残して消えてしまったのだ。
ペリドットの草原が遥か彼方まで続く作り物じみた世界に立っていた。足下の草は踏みつければ、その理不尽さに押し潰されたまま悲しそうな色を滲ませるばかり。そんな様子を見せつけられてこれ以上歩いて行ける筈もなく、立ち尽くす。
誰もいない、何もいない。作り物の世界に取り残された。この世界の名前など知らない。この世界にある名前など知らない。この世界での名前など知らない。呼び掛ける音も、自分を抱き締める為の名前も持っていない。
そう、誰もが知っている名前など世界に在りはしない。誰かが特別な感情を乗せて呼ぶからこそ、全ての音は、名前は意味を持つ。
名前を知らない世界
誰もが己を識別するための特別な名前を待っていた。
2012/05/01
逆行物語、他と被らないようにしたいな。と思いつつ設定を練り。やっぱり有りがちな何かになっていく。
逆行物語、他と被らないようにしたいな。と思いつつ設定を練り。やっぱり有りがちな何かになっていく。