今も目の前で泡の弾ける鮮やかなイエローにその紫色を輝かせ、そわそわしている少女を無視してグラスを傾ける。その角度に合わせて首が傾いていくのが大変鬱陶しい。
口に含んだ甘いオレンジ色、控えめに弾けるシャンパンが爽やかだ。こくんと動いた喉に合わせて視界の端で黒い頭が動くものだから、空いている片手を伸ばして額を小突いた。
「いてっ」
「じろじろ見んな」
「リユキちゃん、それなぁに?」
「話を聞け」
真白い指がグラスをなぞる。細かな泡の動きに合わせて指がゆらゆら揺れて、するりと戻っていった。
「ミモザっつーカクテルだ」
「へー」
「オレンジジュースとシャンパンで作る」
カタンと目の前に並べて説明すれば、酒瓶に手が伸びて別のグラスに注ごうとするので取り上げる。
途端に不満そうな顔になった。
「…えー」
「酒だっつの。お前未成年だろうが」
「だって綺麗な黄色だよ?」
「理由になってねぇから」
手をワキワキさせながらどうにかリユキからボトルを奪おうとしている真麻の頭を叩き、絶対触らないように言い含めてリユキは冷蔵庫の扉を開ける。オウカの作った甘い物が詰められた一角にお目当ての物はあった。
手にして振り返ると口を尖らせてボトルをガタガタ揺らしているので、再び拳が落ちることとなった。
頭を抑えてブツブツ呟く真麻を放置してグラスにマーマレードを大匙2杯、氷水に浸かっていたサイダーの口を開けて注ぐ。シュワッと弾けた音に真麻の視線が動いて、黄色とクリアの2層に分かれた飲み物にパッと顔を輝かせた。
「ほい」
「これはなーに?」
「ノンアルコール版ミモザ」
マドラーでぐるぐるかき混ぜた後、リユキから差し出されたグラスを嬉しそうに受け取って真麻は口に運んだ。舞うオレンジの薄切り、溶けたジャムはグラスの底で渦を作っている。
真麻の口角が上がっていく。
「しゅわしゅわするー」
「炭酸だからな」
「うんー」
少し炭酸が強いのか、少しずつ口に含んではしばらく口の中の刺激を楽しんでいるようだ。ゆらゆら水面を揺らしてグラス底のクリアイエローが揺れる様を眺めて、チマチマ飲んでいる。
ようやく静かになった主を肴にリユキも鮮やかな黄色を呑み込んでいく。合間にナッツ類を囓って真麻にもいくつか渡してやった。リユキと同じものが飲めて食べられたことに機嫌を良くしたらしい真麻も、ニコニコポリポリ食べている。
「それ飲み終わったらジュースとサイダーでも作ってやるよ」
「ん!これ美味しい!」
「そりゃあ良かった」
適度に構ってトレーナーの機嫌を直せた今、あとは勝手にオウカ特製のマーマレードを食べたことを作製者にどうやって怒られずに潜り抜けるか、それだけである。