ようやく出来上がった生クリームを、疲れた右腕とは反対の手で2つに分ける。半分はスポンジに塗るためのもの。もう半分は上に飾るもの。
「あー疲れた」
ガシャン、と泡立て器を流しへと放って、真麻はソファに凭れる。ジンジンと熱と気だるさを伴った右腕は、プランと背凭れから伸ばすだけでも辛い。くったりと半眼でボウルを恨めしそうに睨む真麻の前から、オウカがボウルを取り上げた。
「主人、使いますよ」
「どうぞー」
冷まして横半分に切り分けたスポンジに丁寧に塗っていく。それを重ね合わせて表面全てを真っ白にしていった。
眠そうな瞳がその作業をじっと見つめ、時折パタンと瞳が閉じては開く。塗り終えたナイフを指を使って扱いて、その動きを目で追っていた主へとオウカは真白なクリームの乗った指を差し出す。
そして、真麻は一瞬の躊躇なく口を開き、そのまま目の前に差し出された指に食らい付いた。
「…、噛まないで下さい」
がじ、白い歯を立てて指をかじったかと思えば、ベロリと指先から根元へと舌を這わせる。最後に指先に口付けて、柔らかな唇は離れていく。
「…ん、あまい」
「自分で作ったでしょうに」
「味見までしてないよ」
呆れたパートナーの声に何がおかしいのかクスクスと笑って、感覚の戻った右手を数度握る。うん、と頷いて、薄紙に詰めた生クリームをオウカから受け取って。
「ほんじゃま、しぼりますか!」
「失敗しないで下さいね」
「大丈夫大丈夫」
きゅっと絶妙な力加減でクリームをしぼっていく。楽しそうに絵を描くように腕を動かす真麻にオウカは嘆息して、べったりと唾液に濡れた指を見やって。
「…はぁ」
水道の蛇口を捻った。