暑い中買い物から帰ってきたら、リビングに山と宝石が積まれていた。
それを目の前に主人が宝石を食べている。

「おかえりー」

「…何を食べて?」

「これ」

白い皿にこれでもかと積まれた宝石の山、そこから1つ摘まんで口に運ぶ。しゃく、小さな咀嚼音と共に噛られた宝石の欠片が見えなくなると、にまーっと主人の口元が弛んだ。

「美味しい」

「…そうですか。ちなみにそれはお菓子ですか?」

「うん、琥珀糖って言うの。別名、食べられる宝石」

「なるほど」

確かに宝石に見える。
光を透かしてキラリと光るも反対側まで透けない不透明さ、千切ったような崩れたような不定形さ、色の混ざり具合。赤から黄色に混ざり緑を経て青に移る。とろりとした表面の色が正に色石のようだ。
買ってきた物を片付けている間にどんどん宝石達は主人の口に消えていく。糖、と名に付いているならば砂糖の塊だろうに気持ち悪くならないのだろうか。
作りおきの紅茶を注いで主人の前におく。きょととこちらを見上げて、食べかけのそれを俺に差し出した。

「食べる?」

「…お気遣いなく、自分で」

「あーん」

「…」

思わず舌打ちそうになる。
この人にここで俺に拒否されると言う考えはなく、もちろん俺に拒否など許されないので、素直に口を開けた俺に満足そうに欠片を放り込んだ。
小さな欠片に歯が触れてしゃくと鳴り、続いて柔らかな内側に音もなく到達する。その柔らかさは羊羮よりやや固く、グミほどしっかりしていない。そして甘い。
多分百面相をしていたのだろう俺の顔を見て主人はケラケラ笑っていたが、満足したのか再び宝石を口に放った。ご機嫌でしゃりしゃり食べているのを横目に、あれだけ食べているのになくならない山から1つ摘まみ上げて、蛍光灯の光に翳す。氷よりもずっと不透明で乳白色に歪む光に、本物よりもこちらの方が好きだと思う。
目の前の人は、キラキラしてなおかつ食べられるから買ったのだろうが。光り物が好きなのは昔からだ。

「こっちは炎の石っぽい、これは水の石、あれは雷の石。あっちは白っぽいから光の石で、あっちはちょっと紫っぽいから闇の石でしょ、あとそっちは」

「そう言われると食べづらくなるのでやめて下さい」

嬉しそうに指差しながら食べているそれは綺麗なアメジスト。貴女の瞳にそっくりで、共食いのように見えるから余計やめて欲しい。

宝石の欠片(9月/あとがき)



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