冬場でも薄着に男物のロングコートを羽織っただけの姿で各地を彷徨いている目の前の主は、夏場となるとそれはもう酷い有り様だ。半袖のブラウスのボタンを開けたせいで肌が見えており、暑いからとタイツすら脱いでしまう。少し目を離せば袖すらないワンピース1枚で外へと出てしまうので、ライルが慌てて上着片手に追いかけるのだ。
シンオウでこの季節は特に気温が不安定で、まだ寒さが残っているかと思えば日差しが差して気温が上がったり、快晴かと思えばだんだん曇って土砂降り、なんて日常茶飯事で、今日もそんな日の1つだった。
薄いが長い袖を捲って白い腕が晒される。きっちりと閉じられていた襟が開かれて陽に焼かれていない生白い肌が見える。その端を摘まんでパタパタと動かすものだから、自分の高さからはその奥が見えてしまってどうしようもない。
ふわりと膨らんだ柔らかなそれは、擦り寄る彼女を抱き抱える際に触れてしまっていて、何もないはずなのに知ってしまったことに罪悪感が沸いて、それをこの能天気な主が知らないことに強く頭をぶつけたくなる。
「オーウカちゃん」
「…なんでしょう」
「ぼーっとして、どうしたの?」
顔を覗き込まれる。光に煌めくアメジストが探るように動くのに思わず目を逸らしてしまう。
彼女に気が付かれたくないことはたくさんある。特に自らの主に向ける薄汚い欲は絶対に見られたくない。
「…急に気温が上がりましたので、少し、疲れが」
「もしや熱中症的な?水分摂らなきゃダメよー、まあこんなにお日様出ると思わなかったからね」
そう言いながらまたパタパタと襟を動かす。うっすらと汗ばんだ首筋、綺麗に浮かぶ鎖骨、その下にある柔らかなもの。触れれば簡単に形を変えるそれに触れたいと頭の片隅がうるさい。
「そう、です、ね」
陽に当たる体は暑いのに、身の内がこんなにも冷たいのはなんでだろうか。