「ん、おう?」
真麻が寄って来たと思ったら小さな箱を渡される。持った感覚としては軽く、軽く振っても特に音はしない。首を傾げれば珍しく思い切り呆れた顔をされた。
「えー…。君オウカちゃんより鈍いんちゃうか」
「あいつより鈍いとかすごい傷付くんだが」
あんな鈍足と一緒にしないで欲しい。半眼で睨んで抗議をして、受け取った箱を眺める。
白い平べったい箱。赤と紫のチェック模様のリボンが掛けられたそれは目の前の主人を彷彿とさせる。
と、ここまで考えて気が付いた。
「おう、バレンタインな」
「クソ遅過ぎない?」
「昨日までは覚えてた。いざ当日になると忘れてたけど」
「めっちゃわかる。誕生日とかな」
誕生日あるある。当日になると本人忘れてて突然祝われてビビるやつ。
開封の許可を取ってリボンを解く。中身は色の違う薄いハート型のチョコレートが数枚。
「こっちの茶色のが普通の甘いやつ。こっちのピンクはモモン使ってるからめっちゃ甘いやつ。こっちの藍色の粒々入ってるのはオレン使ってるから」
「おー甘いだけじゃないのが有難い」
「紅茶と一緒にどうぞ」
「あとで頂くわ」
その言葉で気が済んだのか真麻は頷いて駆けていった。多分手に持ってた俺が貰った箱より少し大きいそれを渡しに行ったと思われる。
箱を再度覗き込んで、とりあえずピンクを1つ。口に含んですぐふわりとモモンの香りが広がって、咀嚼して果実の甘味が広がる。
「旨い」
じんわりと残る甘味を堪能しつつ、紅茶を淹れようとキッチンに向かった。