「さむい…あつい…さむい…あつい…」

「大丈夫かお前」

広いベッドのど真ん中、体を守るように丸まって唸る真麻を呆れたようにリユキが見降ろしていた。
うんうん唸りながら寒いだの暑いだのしんどいだのを掠れた声で訴える彼女は、季節の変わり目の風邪に見事にかかり、元々あまりなかった食欲がどん底になったため風邪が長引いていた。まともに食事をしないのでカロリーすら満足に取れない状態のため、手持ちがこぞって何かしらを口に突っ込む事態になってしまった。
今はリユキが起き上がった真麻の顔を固定して口に粥の乗った匙を突っ込む。嫌そうに顔が歪むも、じと目のリユキに睨まれて渋々と咀嚼を始めた。
出汁と醤油だけで味付けされた卵粥は食欲を失っても腹は空く困った胃袋にスルスルと落ちていく。半眼で自分で持ちはしないものの口に運ばれるのを拒否しなくなったので、リユキは粥の盛られた皿とは別の皿を真麻の前に置いた。

「これ全部食ったらこれも食おうな」

「…この季節に苺は…お高いのでは…」

「栄養価の高い甘いものかつ菓子以外でお前が食いそうなそれなりで手に入るものでヒットしたのがこちらです」

「あっはい」

一息に言い切ったリユキにちょっと引きつつ皿に盛られた粥を食べ切り、それを確認したリユキにフォークに刺さるきらきらした丸く赤い苺を唇に押し当てられる。ふわと香る甘酸っぱい香りに顔を弛ませて素直に口を開いた。

「うむ…あまぁい」

「温室育ちでも甘いやつは甘いからな」

歯を立てた途端にじゅわと口一杯に広がる甘い果汁。柔らかいそれは数回咀嚼してすぐに喉を通っていってしまった。ぺろりと唇を舐める真麻はくあと口を開ける。
久しぶりの食事の催促だった。

「はいはい」

自分もたまに口にしつつ促されるままひょいひょいと真麻の口に苺を放り込む。最後の1つも飲み込んでようやく白く死んでいた顔に赤みが差した。いつもと同じように機嫌良くニマニマと笑う彼女を転がして、今度は寝かし付けにかかる。
喉を痛めているにも関わらず延々話し続けようとする真麻を時間をかけて宥めてあやしてなんとか寝かし付けに成功するのは、久方ぶりのまともな食事から1時間もあとだった。

風邪引き注意(11月/あとがき)



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