ひゅうと高いを鳴らして風が吹けばからからと小枝と枯れ葉が地面を転がる。空は高く、晴れ渡っていた。
平均気温低めのシンオウ地方、そこにもうほとんど冬に近い秋が到来していた。
しかしこの家は年中行事をカレンダー通り慣行するため、嬉しそうにニヤニヤと笑う真麻は目の前に不服そうに立つパートナーを眺めていた。

「…笑わないで下さい」

「いやいや、カッコイイよオウカちゃん」

「…うそつき」

「嘘吐いてないって」

真っ白なシャツ、黒いベスト、赤い細いリボンで首元を飾って。裏面真っ赤な黒マントを羽織って。最後に口を開けば鋭い犬歯が覗く。
いつもと違う格好のオウカに満足そうに真麻は頷いた。

「うんうん、やっぱりオウカちゃんはアーキタイプの吸血鬼が似合うよ」

「…フランケンとか…マミーとか…あまり目立たないやつが良いんですけど…」

「君でっかいから何仮装しても目立つと思うよ?」

「俺もそう思う」

ひょんとキッチンから顔を出したリユキに同意され、オウカの顔が歪む。一方真麻は嬉しそうにリユキに駆け寄った。

「リユキちゃんは狼男かー、まあそのまんまだね」

「猫が狼になったくらいだ。ガオー」

「ガオー!」

口を大きく開け、黒く塗った長めの爪を獣の手の形にしたままリユキが真麻を威嚇すれば、大喜びで真麻も真似をする。ひとしきりガオガオと繰り返して満足したらしい真麻は、リユキの後ろでそわそわとしているライルに笑顔を向けた。

「ライルちゃんはー?」

「魔女です!」

「三角帽子が可愛いね!」

「えへへー」

大きめの三角帽子、くたっと草臥れた帽子の先には雫型の飾りが付いてゆらゆらと揺れていた。普段は結っているオレンジの髪は解かれ、肩の出る露出の多い服装も今日は肌が隠れる服を着ている。しかし脚はいつも通り出ていた。
くるっと回って広がった裾の下も短いながらズボンを履いているのを確認して、可愛い可愛いと頭を撫でた。

「でも意外だな、魔女って服とか黒くて地味だからライルちゃん嫌がるかと思ったんだけど」

「暗闇だからまーいいかなーと。明るい内だったら違うのにしてました」

「つかお前は?」

リユキの指摘ににぃーっと真麻は口角を持ち上げる。そうすれば唇からちらりと覗く歯にリユキは呆れる。

「お前も吸血鬼?」

「うん、オウカちゃんと一緒!」

いつもと同じ白いシャツ。胸を強調するように胸下から腰までを黒いコルセットで締め上げて、黒い膝上までのスカート。足元はいつもと同じ赤い靴。左肩にはペリースを着けてひらひらとさせていた。
黒髪に紫の瞳はそのままに、赤い唇から覗く犬歯が少女を危うく見せていた。

「…うんまあ…似合うぞ」

「ふへへ」

「マスターにだったら私の血あげちゃう」

「ライルちゃんの美味しいかな」

冗談か本気かわからない声音で言われ、真麻も真面目に答えてはにかむ。それから背後で不機嫌にこちらを見ているオウカに手を伸ばした。

「オウカちゃんなら、血ぃ飲んでもいいよ」

「別にいらないです」

「私の命ごと、全身の血液あげちゃう」

「だから」

「そしたらずっと一緒ね」

心底幸せそうに自身を見上げる主にオウカは口をつぐむ。やや考えるように視線を彷徨せ、そして結局何も言わずにリユキへと視線をやった。

「…はいはい」

助けを求める視線にリユキは嘆息すると、目の前の小さな頭を撫でる。振り返った真麻に言い聞かせるように言葉を選んで伝える。

「もう一緒にいるだろうが」

「1つに混じるのいいなーって」

「お互いに吸い合った方が混ざるぞ」

「「バッカ!!」」

「おお!確かにそうだ!」

前後から聞こえた罵倒の言葉を無視して(ついでに殴られた後頭部の痛みも見ないフリで)黒髪を混ぜる。最後にご機嫌に揺れる小さな頭をポンと叩いて、キッチンの中を指差した。

「ところでもうそろそろでパイが焼けるぞ」

「やっべ焦げちゃう!」

「火傷すんなよ」

パタパタと駆け込んだ真麻を追い掛けてライルがその後ろに付いていく。あとに残るのはじっとりとリユキを睨むオウカと、その視線から逃げるように顔を背けるリユキだけだ。

「別に助けるなんて言ってねーぞ」

「あのな…!」

「混ざりたいのはお前もだろ」

「俺は!」

「交われないなら混ざればいいだろ。…それで生きていけるかはわからねーけど」

吐き出したい言葉を呑み込んだように顔を歪めるオウカに、リユキはちらりと視線をやってキッチンではしゃぐ真麻の元へと向かった。
きゃあきゃあと聞こえる主の声に顔を背けて、言葉の代わりに盛大に舌打ちした。

血液は混ざらない(10月/あとがき)



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