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話は、数ヶ月ほど前に遡る。
アルファは主たる青年にとって、右腕とされるポケモンであった。これは、強さそのものをとってのことではなく、どちらかと言うと精神性の事で抜擢されたものである。
これを名誉と取るか、或いはただの傍迷惑と取るかは人によるが、少なくとも拒否権はない。

ガンマを含む四人のチーム、蔑称としてツギハギ部隊やらキメラ軍団などと称される者達も、隊長格の集まった選抜隊であって本来それぞれが頭として一団体を率いるエリートであった。
その中にあってリーダーとして抜擢されるアルファの人格は、少なくとも上に立つものとして必要なものだけは破綻せず繋ぎ止められているのである。

「その立場を利用した計画的な殺害とは、恐れ入る。周囲の奴らもお前の為に随分と動いたようじゃないか。
そこの、ガンマとか言うクソ犬含めて」
「違う、違うそうじゃねえって…オイ、なあ…アルファもなんか言えよ…」
「…………」
「主人を殺したなんて、嘘なんだろ?」

あれほどの激情の後、最後藁に縋るような面持ちで、デルタはアルファを見た。違うなら最初から違うと答えるだろうし、こんな悪趣味な嘘をつく男ではないと知りながら、それでも嘘であってほしいと言う思いを堪え切れなかった。

「言っただろう、事実だと」
「…動機は?アンタ別にあの人に酷く扱われていたとは思えないが」

無言を貫いていたベータが口を挟み、訳知り顔で男を見た。
彼より殺人動機がある者など両手両足合わせても足りない。そもそも、もとより寿命が短いのは事実。放って置いても死んだ相手をわざわざ殺す理由とはなんぞや、である。

「…………」
「黙秘か。それじゃあ、アンタを批判も擁護も出来やしない」
「殺した事実さえあれば構わないはずだ。
断罪すると言うなら、早くしてもらおう」
「隊長!」

命乞い一つしないアルファに、捕まえている筈の部下達の空気が張り詰める。エカトの方が有利な状況であるはずだし、目の前の男は殺すなら殺せと言っているだけだ。
だと言うのに、周囲の空気は嫌に重々しい。顔の広い男だが此処にいるのは新人ばかり、殆ど関わりも薄い新参ゆえに男の気迫に当てられているとも言える。
かといってこの男と同じく戦場を駆け回った様なものは、義理堅くこのアルファと言う男の肩を先のガンマと同じように持つのは想像出来るので、チームに入れるわけには行かなかった。
しかして、故に戦力不足は否めない結果だ。エカトとしては、此処でアルファを仕留めておければ万々歳…ではあるが、それよりもっと大事な事があるのも理解している。

「オイ、今更何を隠してやがる。普通じゃねえぜ、アンタ」
「なんとでも言うといい。俺から話すことはなにも無い」
「嫌に頑ななのは、自分一人のことではないからだろうね」

冷静なベータに続いて、震えるココロの髪を手慰みにしながらそう話すヘイスは微笑みすら携えている。いっそ不謹慎なほど他人事な男に、周囲は何度怒りを露わにしたか知れないだろう。
それでも彼が決してその立場を追われないのは、実力とそれに裏打ちされた主人からの寵愛という事実からである。

「あまり無理をして嘘をつき続けても、己の立場を危うくするだけだよ。
アルファ、君だってこんなことで死にたくはないだろ」
「何度も言わせるな。俺には話すことはないと、」
「隊長は命令に従っただけだ」

アルファの頑なな返事にかぶさるように、ガンマが口を挟んだ。デルタは目を少し見開き小さく震えたが、ベータを含むそのほかの者達は些かの狼狽も見られない。

「ベータ…まさかお前、知って…」
「ハッ、知るわけないだろ。
単純な話、“あの”隊長殿が好き好んで主人を手にかけるはずがないんで、命令と聞いてしっくりきただけだ」
「命令ったって、一体…誰が」

そんな、といいかけてデルタの思考がそこに行き着くのは簡単な事だった。そして、何より否定したい事でもある。
何故?どうしてそんなことを?そうであるなら、なぜアルファは止めなかった?
様々な疑問が右から左に抜けていって、最後に残った言葉が舌先からぽろりとこぼれ落ちた。




「まさか



…あるじが、自分で?」

青ざめた顔のデルタの声に、アルファが返したのは沈黙だった。
ただ、その重たい沈黙と、鎮痛な眼差しこそが、確かに答えだった。
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