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「お前らの漫才はどーでもいいけどさ、何しにきたんだよ」

先までの流れをつまらなそうに見ていたガンマは、手錠のついた腕を軽く掲げながらそう面倒くさそうに言葉を吐いた。
銃口は相変わらず後頭部に押し付けられているが、ガンマは欠伸すら漏れそうな気の抜けた表情であった。背後の男が恐怖に少し震えている。
新人に銃を持たせて殺しを味合わせるのは哀れだが、主人はいつも『新しく来たものをほど最初の殺しは明確に記憶に残らせるようにするモノだ』と、そう言っていた。


『逃げられないようにしないとね。
お前たちのよすがは此処だけなんだと、思い知らせるためにも』

悪魔のような人だ。
昔から変わらず、甘い響きの声で剥いだ皮の滑らかさを誇らしげに謳う人だった。

「きみ、銃はもういいよ。撃ったところで軽傷にすらならないから」
「は、はい!」

ヘイスの穏やかな声に安心したように男は銃を下げる。
技と違って手加減ができない分、ポケモンであっても殺しの道具は恐ろしいものだ。だからこそ、必要なのだが。

「うんうん。
話を聞く気になってくれて良かったよ。
そうだよね、エカト?」
「俺はどっちだってかまいやしねえよ。
変わるのは死体の増減ぐらいだろ」
「ふふ、その死体が自分になるかもしれないし、可愛い部下達かもしれない。
僕らは確かに強いけれど、無敵じゃないよ」
「戦う前から弱気になってちゃ世話ねえや」

ふん、と鼻を鳴らしてついた悪態に、ガンマは一々のってやる義理もないので無言でスルーする。ヘイスのほうもすっかり耳馴染みになっているので、ニコニコするばかりだ。
ただただ不安そうなのは、ヘイスの腕の中で動くに動けない幼子のみである。

「それよりも…だ。
オイ、ガンマ。テメェはどこまで聞いてるんだ?」
「主語がねえんだけど、何のこと?」
「すっとぼけンな。
そこのまがいモンのチビのことに決まってんだろ」

そう言って指をさす男の視線に、ココロは体を小さくしてヘイスの腕の中に隠れようとした。頼るべき相手ではないと分かっていても、この中で最も自分の肩を持ってくれるのは彼だと理解していた。
ガンマは、エカトの言葉に少し顔を歪めて鋭い瞳を更に鋭くして、唸るように口を開いた。

「その言い方やめろ。ココロちゃんが可哀想だ」
「一丁前に感情があるようなフリしてんじゃねえや。
いい奴の模写をするんなら、きちんと感情的になりやがれ」
「あー…ハハ。
模写、ね…あながち、見当違いでもないか」

実際、心の底から心配して言ったわけではない。勿論ココロを嫌っているわけでもないし、好感はあるが。
それはあくまでも、“普通の大人が子供に対して抱く程度の”庇護欲であり、身を挺してまでの特定の人物に対する熱烈なそれとは違った。

「まあ、俺は別に、いい奴になりたいんじゃないから」

死んだ時の、大事な土産話として綺麗な思い出を持っていかねばならない。
『シスターの言いつけを守る良いコ』として今を生きるガンマは、言ってしまえば彼女の死後以降は推定ただの余生だ。その余生の中で、誇れる話と上々たる己を作って、生きて死ぬ。
言ってしまえば人生の目的はそれだけだ。

「エカト。
俺はお前とおんなじで、前を向いて生きてないんだよ」


後ろばっかり見てるから、足元を掬われる。

ガンマがそう呟くのと同時に、ツル下げられたライトがチカチカと短い期間点滅を繰り返してから、電灯が破裂し、暗転する。

「! ヘイスッ!構えろッ!」
「ああごめん、もう遅いかな」

示し合わせたかのようで、その実全くそんなことはない。
これは、恐らく事故だからだ。ガンマは全てのことは分からないが、アルファのことは少しわかる。良く見ていたから。
ビリビリと感じる足元の痺れは、戦場で何度も感じた彼のエネルギーだ。

「俺の大事な部下を、返して貰おうか」

ガスマスクをつけた二人を背後に背負って立つ、小柄ながら屈強な男こそが、まさに、ガンマの手綱を握る男で。
ガンマはようやっと息ができたかのように、戦場になるだろう部屋の真ん中で笑った。
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