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「こんなところまで連れてくるなんて…」

フォラーズはそう文句を言いながらも、自分の腕につけたミサンガを触りながら少女に視線を向ける。
人間からの贈り物ともなると、一応神の創造物として一端の威厳があるのかという気持ちになってしまうのは、特殊な喜び方ではある。そわそわしながらもナギサの浜辺につくと、不思議そうなココロを除いて待ちの姿勢をとる。

「いーじゃん、一人ぼっちにしてったらカワイソーだし。ねー?」
「? うん?」
「君がこの緊急時に子供を拾ってなどくるから……ああもう、いい!全く!」

あくまでも自分は加担していない風にしたいのだろうが、少女の頭を撫でて構って居れば、テンニーンの独断だとは思われないだろう。
時計を眺めていつになるか分からぬ同胞を待つ。大人しく腕の中に居た少女も、その時間が一時間を過ぎると、暢気にしていられなくなったのか困り顔でテンニーンを見上げる。

「ねえねえ、わたし、そろそろかえらないと…」
「ええ〜?」
「かしおりじゃないけど、プレゼントできたし…。
はやくあやまりにいかないと、きらわれちゃう」
「ふーん。別にほっときゃいいのに」
「だめ!」

ぶんぶん頭を振ってそう拒否するココロに、テンニーンは困ったように頭を掻いた。
勿論元の場所に返してやるくらい訳ない事だが、今は待機していないとマズいのだ。かといって適当に元の場所に戻した挙句、誰かに攫われたなどとなればそれこそ据わりが悪い。

「今じゃなきゃダメ?こっから俺ら、集まって会議なんだよね」
「かいぎ…」
「うん、超大事なやつ」

だから連れてくるなと言ったのに、と目を平たくするフォラーズに、テンニーンは手をひらひらさせてから、余計なことは言うなとばかりに彼女の視界に入らないように彼に背を向ける。
腕の中にいる少女は、すっかり先とは別の困り顔で「かいぎ…」と二度目の言葉を繰り返した。その正確な意味はわからないとして、大事なものだと言うのは理解できたらしい。
元来、ココロはその出生も相まってか、子供らしい我儘をぐっと飲みこみがちな少女である。頭ごなしに駄目だと言われれば反発もしたろうが、今回のテンニーンに様にきちんとした理由を提示されれば、寧ろ自分の方が悪いだろうと思いなおすことができるのだ。
その他人を思いやれる所が良い所でもあり、我を通すという意味では悪い所でもあった。

「…すぐおわる?」
「直ぐかはわかんないけど、終わったら絶対仲間の元まで送るよ」
「やくそく?」
「ヤクソク、指切りげんまんしようか?」
「うん!」

ゆびきりげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーます。ゆびきった。
少女のかわいらしい声と、男の低く艶の乗った声が合わさったそれが、引いては反す波の音に消えることなく海にまで響く。夕焼けに染まり始めた赤い海は、静かに太陽を海の底にまで引きずり込もうとしているが、未だ二人の待ち人の姿は見えなかった。

「…忘れてたりしねーよね?」
「流石に無いだろう。皆マイペースだから、遅れている可能性はあるけれど」

特に、君の同期。
フォラーズはそう言って近場の岩場に腰かける。長丁場になりそうだ、と言うのが彼の見解らしい。
確かにムディーアの事だから、研究がノっているとかそんな理由で一日放置されるなんてザラにありそうだ。

「あんま遅かったら迎えに行こうかあ、そんで、ついでにココロちゃんも仲間に…」

そこまで言ってから、日の落ちた暗い海から飛び出した影に、テンニーンは反射的に腕を出した。
のけぞるでもないのに上についた口に、とてつもなく強い顎。赤く光ったそれは『怒りのまえば』だ。レベルに関係なくHPを半分まで持っていかれるそれに、苦痛の色を浮かべて振りはらう。

「ウオチルドンか…」

人間に妙な復活をさせられた結果、頭が反転している首長竜の体と魚の顔が付いたそれは、ほとんどの人間には受け入れられない怪物だ。
それでも浜辺に打ちあがったそれを、ココロはまるで宝物でも見るように目を輝かせて「デルタちゃん!」と叫んで手を伸ばした。
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